第90回『コミュニケーションデザインの研究と実践(7)先生が間違えると生徒は学べる!?』
2018年09月06日
今回からは大塚裕子(ひろねー)さんをお招きして対談をお届けします。
「コミュニケーションデザインの研究と実践」をテーマに、
複数回にわたってお話を伺っていきます。
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河村 甚(写真右、以下じん)
前回の対談で、ある考えをレクチャー形式で伝えると、
それが正解だと思われたり、依存が起こったりするという話題になりました。
でも、ひろねーのように、普段から「やっちゃった、ごめーん」っていうスタンスでいると、「この人常に正解じゃないんだ」ということが伝わるね。
大塚 裕子さん(写真左、以下ひろねー)
私は大学の授業中にも「あー、ごめんごめん、間違えた!」って言うことがありますね。「この前こう言いましたけど、ちょっと自信がなくてもう一回調べてみたら~~でした」とか。学生も「またぁ」みたいな感じです(笑)
「先生たちが言うことを鵜呑みにするな」と常々言っていたのですが、接点の多かった学生ほど、それが感覚的に伝わっていた気がします。先生から言われていることを神妙に、受動的に聞くのではなくて、「先生、また間違えるかもな」と(笑)
じん
それはいいね。
ひろねー
ある意味“知の権威”でなくてはならないのに、研究者仲間からは、「よくそんなことやるね~」って言われていました(苦笑)
じん
いや、それすごくいい。
重要なのは「権威でなくてはならない」ということじゃない。
「学生がいかに学んでいくか」ということの方が大事。
いくら「主体性を高めなさい」と言ったって高まらないけど、
先生が「間違えた、ごめん」という姿勢であることで、
学生は、自分が「あれ?」と感じたときには、先生より自分の方が合っているのかも知れない・・・と思える。
「この人が絶対的な正解を持っているから、この人の言うことを聞いておけばいいんだ」と依存してしまう形ではなくて、むしろ「この人の言うこと聞いてたら危ない」と思うから自分で考えるようになる。
先生の言うことは、正解かも知れないけどそうじゃないかも知れない。
「先生も間違えるんだ。じゃあ、自分もちゃんと見てなきゃ」
「これ、また間違ってるんじゃない!?」と思うことで、
「本当に正しいのかな」と学生自ら考える主体性が育まれている。
ひろねー
いい方法論かな(笑)
じん
そうですよ!
ひろねーが意図せずやっていたことが、ものすごく学生の主体性を伸ばしている。
先生の方に、権威であろうとする構造があるから、
学生はどうしても自分で考えなくなるし、「答えくれくれ」になってしまう。
ひろねー
”権威ある人”は、最初から本人が権威であることを望んでいる訳では必ずしもなく、その権威はまわりによって作られている場合もあると思う。
ティーアップが依存を生む
じん
研修や講演では、よく“ティーアップ”をするじゃないですか。
「この先生は○○大学の~~で・・・」等の前振りをすることで、
「この人の話はすごいんだ!」と思わせてから講演に入る。
そうすることで、参加者は参加して得した気分になる。
でも、そこには依存構造が生まれる。
講演ならそれでいいかも知れないけれど・・・、
研修で対話を起こしたい場合は、依存構造はできるだけ生まない方がいい。
ひろねー
そうですね。私自身、思い当たるエピソードがあります。
はこだて未来大学の教員を辞めて厚木の保育園に移ってきた後も、大学の非常勤講師をしています。移った直後は保育士資格を持っていなかったので、保育士でなく調理担当として働いていました。正直に言うと、大学で学生に対して自己紹介する際、「保育園で給食つくっています」とストレートに言えない自分がいたんです。
学生の立場から見ると、「保育園の調理をしているという人がコミュニケーションデザイン?」っと思われるじゃないかとか、授業をまじめに聞く気になるのかな・・・とかいろいろ考えてしまって・・・。つい口ごもってしまったり、「元未来大の教員です」と自己紹介したりしていました。かっこ悪いですね。
でも、そういう振る舞いをしていたときは、学生の話し合いが活発ではなく、むしろ、その後、自分のティーアップをせずに授業をしたときの方が、学生たちが主体的で積極的になった気がする。
「今、保育園で働いていてね」と率直に話した方が学生は食いついてくるし、子どもたちの様子など保育園での話を織り交ぜることで、より関心をもってもらえるようになっていました。
じん
それ、一番いいパターンだよね。
実業をやっている人が学校で教えるのは、リアル事例があって良い。
ひろねー
研究所に勤務していたときも実業に近いところにはいたので、大学に移った時も「裁判員裁判の調査に携わっていて・・・」とか、事例を交えながら講義をしてはいましたが、なんというか、ちょっと偉そうだったのかもしれません。
「保育園で、日々子どもを追いかけててね」と話すことは、「裁判員裁判の・・・」とはちょっと違ってて、こんなこと言っちゃって平気なのかな・・・と自分としては少しモヤモヤしていました。でも実際は、学生がみんな言いたいことを言うようになってきた。学生自身が抵抗無く安心して発言しやすい状態ができてきたんですよ。
じん
「この人の前では失敗できない」って感じがないよね。
ひろねー
大学教員ではなく、普段は子どもを見てギャーギャーやってるんだと思うと、学生も話しやすいのかもしれないですね。
じん
大学に保育園の先生っぽい格好でいったらウケるかも(笑)
ひろねー
そうね、それはあるかも!(笑)
じん
大学の先生で、「裁判員裁判の研究調査としていて~」と言われるより、
保育エプロンを付けて「ひろこ先生」で来た方が学生との距離は近いし、インパクトがある。つかみばっちりですね。
ひろねー
そういえば未来大で出勤するときの服装が、オーバーオールとかダメージジーンズのことがありました。さすがに「ダメージジーンズはねぇ…」と言われましたけど(笑)
理想の雰囲気:はこだて未来大
ひろねー
はこだて未来大は、前学長はかっこいい大型のバイクに乗っていたり、現学長はロードバイクで通勤していたりと、大学全体に自由でオープンな雰囲気があります。
現在、保育園で責任ある立場になって、はこだて未来大のフリーダムな雰囲気を、自分たちの園でも実現するにはどうしたらいいかはよく考えています。例えば、ある教員が授業のない時間帯に、よその教員の研究室に、「今ちょっといい?」ってお茶を持って行って、おしゃべりしに行く雰囲気とかね。そういうのはいいなぁ、やっていきたいな、と思いますね。
じん
なるほどね。
ひろねー
大学在職時の経験が、今、保育園運営でも活かされています。
それは、研究において重要な観察や分析を実業に取り入れてるだけでなく、組織の作り方としても。はこだて未来大のオープンな雰囲気は、組織のあり方として、私の考える理想の一つだと思っているんです。
じん
そうなんだね。
ひろねー
「学内にバー作りたいよね」というようなことを本気で話し合うような人たちが集まる職場だから(笑)
じん
それ、絶対いいね。
ひろねー
実は今、すごくやりたいと思っていることがあるんです。保護者を呼んで、保育参観後にみんなでお酒を飲みながら、畑で作った野菜を食べる。いいでしょ?!(笑)
じん
うちの保育園は、謝恩会3次会で先生たちが我が家に来てくれました。
飲んで語る機会、もっとあるといいですよね。
ひろねー
もっと、保護者と保育士の1対1のつながりが増えてもいいと思うんですけど、そうすると公平性に欠くという見方もありますからね・・・。本当は大切なことだと思う。いずれは、食べて飲んで、というのは、収穫祭としてやりたいと思ってます。
じん
できるといいですよね。
保護者はいろんな価値観の人がいるからね・・・やっぱりそういうことダメな人たちもいるし。
ひろねー
少人数でも保護者はいろいろですね。
保育園でリアルチームビルディング
じん
ですね、謝恩会の準備はリアルチームビルディングで面白かった。
全然意見が違う。しかも利害関係がない。
給料をもらってやっている訳ではなく、みんなボランタリーでやっている。
みんな違う当たり前をもっている。
ひろねー
個々に違う当たり前、おもしろい!
じん
謝恩会は先生方に感謝を示す場。
共通の思いである「先生に対する感謝」だけで、いかにまとめあげるか。
面白かったですよ~リアルで。
ひろねー
どのくらい時間掛けたの?
じん
打ち合わせが4・5回くらいかな。あとは個別相談をやったりとか。
ガチのチームビルディングが刺激的でした。楽しかった。
ひろねー
時間が無い中で、そこまでやることを嫌がる保護者もいない?
じん
無理してやらなくていい・やりたい人がやればいい、って
最初から言ってましたからね。
ま、実際はやらない訳にはいかないんですけど。
何でも言える関係だからこそのぶつかり合いも起きました。
そのバトルをどう裁くかが面白かったですね。
僕はトラブルシューティングが大好きなんですよ。
だからバトルが起こると、「キタキタ~!」って感じ(笑)
ひろねー
利害関係なくやっているから、バトルをおさめるのも難しいですよね。すごいです!
保護者との協働に、楽しさも難しさを感じているところなので、興味あります。
じん
園と保護者の一体感をいかにつくるかが、僕は大事だと思いますね。
でも実際、イベントをするとなると、先生方も準備とか大変なのでは?
ひろねー
保育士たちの様子を見ていると、自分たちが納得して楽しんでやっている仕事については残業が嫌だとかないんですよね。楽しいことは自分からすすんで準備したり、環境を整えたりしています。
じん
ハッピーに仕事ができるっていいよね。
保育士へのフィードバック
ひろねー
保育の仕事って、保育士自身がやっていることが妥当なのかどうかを判断しにくいんです。研修や講義のように、参加者から「すごく楽しかったです」「○○が身になりました」とか伝えてもらえる訳ではないから、自分で納得するしかない。
私がブログで、園の様子、子どもたちの様子を発信し続けているのは、もちろん自分のためもありますが、保育士たちに「あなたたちのやっていることって、こんなに素晴らしいんだよ!」ということを知ってもらいたい、感じてもらいたいという気持ちがあって書いています。
保育士たちのやっていることを、専門の言葉を使って言い換えることで、「自分たちのやっていることって、こんなに意味のあることだったんだ!」と思える。
じん
それ、すごく大事だと思う。素晴らしいね。
ひろねー
大学の教員にとっては論文や学会発表など自分の行っていることを成果発表する場があります。
企業では報奨制度があったり、クライアントからのフィードバックがあったりしますよね。そういうことが保育の仕事にはない。
だから、今回、食育コンクールで賞がとれたこと(http://kids21.gr.jp/syokuiku/winner.php)は、先生たちにとって自信になったと思います。自分たちが楽しくてやっていることが、第三者からも評価された。「間違っていなかったんだな」と思える機会になったようです。
じん
そうだね。
ひろねー
世の保育士さんたちが上司以外からも適切に評価される場が、もっとあるといいなと思いますね。
じん
保育士さんのやっていることが、基本的に子どもたち以外には見えにくい。
その子どもたちも、「先生、保育上手くなったね」とは言わない(笑)
だからこそ、評価されているということをいかに見えるようにしていくかを考えるとき、
ひろねーがブログで発信していくことは、意味がありますね。
先生がこんなにも頑張ってくれているということがわかれば、
親としても嬉しいと思うな。
ひろねー
ブログを読んでくれている保護者は、自分の子だけでなく、園の他の子への関心も持ってくれるようになりました。
ブログは一方向型の発信ではありますが、発信の意義・効果があることを感じています。
私のブログを自分の振り返りに使っている保育士さんもいます。
「ブログを1年間振り返って読んでみて、わたしの転機はここだと思いました」
と聴かせてもらったりしたときは、じわっと胸が熱くなりました。