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第87回『コミュニケーションデザインの研究と実践(4)有罪か無罪かを決める対話:前編』

2018年07月26日

チームビルディングの話をしよう
2015年4月から始まった連載コラム「チームビルディングの話をしよう」では、代表河村がチームビルディングを切り口にさまざまなテーマでいろいろな人と話し合った様子をお届けしています。
今回からは大塚裕子(ひろねー)さんをお招きして対談をお届けします。
 
大塚さんは現在、社会福祉法人喜慈会
子中保育園で副園長をされています。
http://konakahoikuen.com/
 
研究者の視点を持って保育園運営をされる大塚さん。
「コミュニケーションデザインの研究と実践」をテーマに、
複数回にわたってお話を伺っていきます。
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目次

 

 

大塚裕子さん(写真奥、以下ひろねー)
私は、大学で教員をする前は、
都市計画や交通計画を行う研究所で、
新聞やアンケートなどで発せられた語彙データの分析をしていました。
「自然言語処理」という分野の研究です。

河村 甚(写真手前、以下じん)
ほぉ~。

ひろねー
例えば、町づくりについてアンケートを取ったとしますね。

自由記述でアンケートに書かれた意見から、
町づくりをしていく上で、市民にはどのような不満の対象があるのかを
自動的に識別できるルールをつくるんです。

言葉には、ネガティブな表現とそうでない表現がありますが、
そういう情報をルールや辞書として記述していないと、コンピューターには識別が難しい。

例えば、アンケートに「どうにかならないものか」と書かれていたとします。
人間がこの記述を読んだら、これはネガティブな意見だ、ということが分かりますよね。
しかし、コンピューターにはできない。

人は自分の不満や要望をどのように言葉に表現するのか。
そういう研究をしていました。

じん
膨大なデータとなる要望アンケートの言葉の意味を
コンピューターでさばけるようにする、ということですね。

ひろねー
はい。博士論文もそれがテーマだったので、
要望抽出のルールは、ある程度作ることが出来ました。

研究所でも、そのような研究を続けていたのですが、
次第に人と人とのコミュニケーションに興味をもつようになったんです。

ちょっと話が逸れますが、
「パブリックインボルブメント」っていう言葉、聞いたことあります?
都市計画をする際、事前に住民に周知し計画を共有して、一緒に進めていくことが重要だという考え方。

歴史的にみると、
1980年頃、アメリカで大規模なインフラ工事が市民の反対にあい、
訴訟沙汰になってストップした、という経緯がありました。
これでは市民にとっても国や自治体にとっても大損だということで、
パブリックインボルブメントが取り入れられるようになりました。

この考え方が日本にも入ってきたのは、1990年代。
国交省の職員や土木研究をしている大学の先生を中心に
日本でも計画段階から市民を巻き込んでいく必要があるということが言われるようになって。
そして、市民参加の場をつくるためにはファシリテーターが重要だとされたわけです。

先に挙げた土木関係者の中には、堀公俊さんの本を読んで「対話の技法って大切」と言いながら
一生懸命ファシリテーションの勉強をしていた人もいました。

対話そのものを研究することは、
「会話分析」といって、すでに社会学の手法として以前からありましたが、
このような流れの中で、私も対話のやり取りを分析することの面白さを知りました。

それまでずっと、コンピューターを賢くするためにデータを分析をしてきましたが、
対話自体の研究に関心が移ったんです。

じん
なるほどね~。そういうつながりだったんだね。

ひろねー
そうそう。「市民参加の場で何が起こったときに、市民が怒るのか」「怒らせた一言は何か」等、分析することで見えてきます。

市民参加の場でも、対話のデザインが大切です。

 

裁判員裁判

ひろねー
この経験が生きたのが、
裁判員裁判が始まるときに関わった仕事です。

裁判員裁判って、ある意味で、専門家の意思決定における市民化の構図ですよね。

専門家の中に市民が入っていったときに、
専門家に引きずられた解しか出せない、ということが起こり得ます。

では、その時に裁判官はどのようにしなくてはならないのか。
それを探るために模擬評議の分析をしました。

実は、裁判員制度の導入にあたって、法曹関係者たちが
一般市民を公募で集めてかなり本格的に模擬評議が実施されていたのですが、
模擬評議を分析する人たちはいなかったんです。

ある心理学系の研究会に有志で集まったときに、
「試しに私たちで分析してみよう」ということになり、
研究仲間が集まって分析し刑法学会で発表しました。

学会発表後、現役裁判官も関心をもってくれて、
裁判員裁判が始まるまでの間、各地で行われた模擬評議のデータをいただき、
裁判官のうっかりした発言や、発言順序の問題点など
ファシリテーションでいう場の作り方を課題として洗い出しました。

じん
裁判員裁判って、すごく難しいですよね。
話し合いをしっかりと起こさないとならないし、しかも全員素人だし。

ひろねー
難しいですよね。

じん
そこで持つべき視点やステップがいくつかあると思うんですよ。

まずは情報を得る。
次に、情報をフィルターを掛けずに見る。
判断するためには、フィルターを掛けずに見ることが必要だと思うんです。

でもみんな自分の常識のフィルターで見るじゃないですか。
例えば、過去こういう顔の人に嫌なことをされたことがあるから、
この人も嫌な人に違いない、というフレームを持っていたりとか。
そういうフレームを全部抜きにして、情報を見なくてはならない。

それってすごく大変だし、日常の中でそんなことしてたら生きていけないから、
自分のフレームで物事を簡易に見て判断して進めていますが、
裁判員のときは、日常の自分の思考フレームを持ち込んだらまずいわけですよね。

 

“分かっていない”ということに気づく仕組み

じん
あと、「分からないということが、分かっていない」ということもありますね。

自分が何を分かっていないのかを分かる、ということは難しいよね。
自分が分かっていない、ということが分かっていないから、
分かっていないことに気づかせてあげる仕組みが必要になる。
例えば、ファシリテーターがいる、とかね。

裁判員裁判には、裁判官は同席しているかもしれないけれど、
裁判官はファシリテーターじゃないからね。

裁判官はプロの法律の知識は持っていても、
いかにコミュニケーションの流れを作るかということに関してはプロじゃない。
裁判員裁判では、法律の知識よりファシリテーションの方が必要なんじゃないかという気がする。

ひろねー
裁判がどのように行われるのか、どういうことが話し合わなくてはならないのか。
これらのことを学んだ上で、分析を進めていく中で、
やはり、誰がファシリテーションをやるのかということは問題になりました。

じん
だよね。

ひろねー
結論を言うと、やるのは裁判長であろう、ということになった。
裁判長に対する支援が大きくなりました。

じん
裁判長がいかにその場をファシるか、という。

ひろねー
そう。最終的には仲間で本にもまとめました。
いくつかの研究グループが、裁判員裁判をテーマにして本を出したんです。

例えば他のグループの研究では、
専門家の人は、こういう語彙を使うけれども、一般の人は、こういう語彙を使う
・・・などその場で話されている語彙に着目した研究もありました。

私たちの研究はそのような客観的なものではなく、
「裁判官が良いファシリテーターになれるためにはどうすればよいか」
という方向で研究を進めました。

模擬評議で起こったことを分析し、
「この一言を言ったために、裁判員の人は混乱していますよね」とか
「この裁判員の口数が少なくなりましたね」とか
「発言の時にすごくためらっているのがわかりますか」とか・・・。
このようなことを研究としてまとめました。

じん
すごーい!

ひろねー
データに基づかずに、「こういうことを気を付けないといけません」と言うだけでは
聞き入れてもらえませんから。

じん
それ、すっごいわー! なるほどね~。すっごい興味ある。

ひろねー
ある模擬評議で起こった、面白いエピソードがあります。
裁判長が一番最初に「わたしは有罪だと思います」と述べたら、
他の裁判員もみな「わたしもそう思います」と言ったんですね。

そこで「専門家の言うことには、みんな従いますよね」とフィードバックしたところ、
次の模擬評議では、最後まで裁判長が自分の判断を言わなくなったんですよ。
それはそれでどうなんだろうね、って感じですよね。
そこで、ではどうすればよいのか、を考えるわけです。

対応策の一つとしては、
裁判長(ファシリテーター)としての意見と、個人の視点の意見を分けて、
「今は、司会進行の役割としてみなさんの意見を聞きたいと思います」等
立場の表明をちゃんと言語化することも有効だという見解を示しました。

これはファシリテーションではすでに言われていることなんですけどね。
データとして事実を根拠に述べることで、納得してもらうことができました。

じん
裁判員裁判において起こっている課題を特定した上で、
だからファシリテーターの関わりが大事であると。説得力がありますよね。
僕は裁判官なんて別ジャンルで全然知らなかったけどつながってるんだな~。面白いね。

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