第86回『コミュニケーションデザインの研究と実践(3)組織づくりの現実』
2018年07月12日
今回からは大塚裕子(ひろねー)さんをお招きして対談をお届けします。
「コミュニケーションデザインの研究と実践」をテーマに、
複数回にわたってお話を伺っていきます。
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大塚裕子さん(写真手前、以下ひろねー)
新体制になる際、まずは最初に
保育士さんたちに「これまで何が嫌だった?」と尋ね、
率直に話し合って、デトックスする場を持ちました。
結果的には、この取り組みはうまくいったのですが、
信頼するある人から、こうも言われたんです。
「それはうまくいく方法かもしれないけど、安直だよ、やり方としては」。
河村 甚(写真奥、以下じん)
おぉー!
ひろねー
すごく深いと思いませんか。
この言葉はこの先も忘れないようにしようと思っています。
半年経った後、
「あの時の言葉を、すごく大切に受け止めてます」と伝える機会があり、
彼女も喜んでくれました。
じん
どういう意味で「安直」って言ったんだろうね?
ひろねー
「デトックスは大切かもしれないけれど、ある意味、悪者を作ってしまっている」ということだと思います。
じん
敵を作ることで仲間になるやり方をしているということだね。
ひろねー
そう。その彼女からは「ひろねーがやっているのは、そういう意味だけではないだろうけど、共通の敵を作る方向にも見えるよ」と言われました。
じん
ねらいが別だったとしても、たしかに共通の敵を作ってしまうという側面もあるね。
ひろねー
次に進むために必要だと思ったデトックスだけど、
彼女から「安直なやり方」と指摘を受けたときに「そうか、なるほどな」と。
もしかしたら、保育士の中にも、
共通敵を作っていると受け止めた人がいたかもしれない。
「これが嫌だ」と言い合うことは、組織を作っていくときに
必須ではありませんよね。
悪いモノを悪いと認識するのはいいですけど、
今までやってきたことを叩く、否定する、ということは
やり方を間違えると、いじめ体質の組織づくりになりかねない。
気を付けないといけないと思いました。
ただ・・・、そうする以外にどんな組織づくりがあったのかな・・・
時々思い出して考えるんですけど、今でも答えはわかりません(笑)
心理的安全性の高い組織、低い組織
じん
基本的にはすごく良いことだと思いますよ。
閉鎖的な組織とか流れのない組織って、
言いたいことを言ってないし、思っていることを言えてない。
ちょっと言いにくいことをお互いに言うということは、
チームビルディングで大切なことの一つです。
言いにくいことが言えないとか、言いにくい状態というのは
要するに心理的安全性が低い状態です。
そういう状態ではうまくいかない。
少しずつ言える範囲を広げていく必要があります。
ひろねーが実行したのは、言いにくいことを言えるようにしよう、ということだよね。
やったこと自体は決して悪くない。
問題は、それをどういう伝え方・見せ方でやるのかということだけな気がします。
「敵を作って仲間になろう」という
あらわれ方にならないようにすることが大切ですね。
ひろねー
たしかに。
このデトックスの件は、心理的安全性という点において、とても象徴的でした。
娘が、身内である母親(当時の園長)のことを
「あれは問題だ」と言い出したことによって、
「ここまでしゃべってもいいんだ」「こんなにオープンなんだ」
ということが、保育士さんたちに伝わり、
その後お互いの考えを率直に、自由に話し合いやすくなったと思います。
決して上辺だけの会話ではなく話し合うことができました。
ただ、今考えて一つ気になっていることがあります。
それは母親の時代からずっと働いてくれていた保育士さんたちのことです。
方針が合わないということが明確で、辞めていった保育士さんもいました。
でもそれはいいんです。
問題は、はっきり言うことができない保育士さん。
「私はこうしたい」という思いがそれほど強くない人もいます。
「自分の保育理念は○○です!」と誰もが熱く語れる訳ではない。
そういうタイプの保育士さんは、戸惑っているのがわかりました。
あまりにも強烈にやり過ぎたかなぁ・・・と色々考えた。
その保育士さんにとっては、前の園の体制、風土・文化でも、
そんなに居心地は悪くなかったのかもしれない。
これまでの園には問題があった、良くなかったと否定するのは、
これまで園を支えてきてくれた保育士さんを否定したことになっていたのかも・・・。
そういうモヤモヤが残っています。
じん
極端な方向づけを持ってしまうと、
ある特定のジャンルの人たちはそれでハッピーだけど、
そうじゃない人を排除してしまうということがありますよね。
本当に言いにくいこともお互いに言い合える場をつくるなら、
「みんなこれまでのことを批判してるけど、わたしは今のままでもいいんじゃないかと思う」ということも言い出せるような持っていき方をしないとそこに閉鎖性の壁ができちゃうよね。
ひろねー
ほんとうに。この件は、どんなふうにすればよかったのか、
未だに自分にとってはモヤモヤしていることの一つです。
価値観の多様性
ひろねー
働いてくれている保育士さん全員に主体性を強く望むこと、「主体的であれ」ということ自体も、
価値観の押し付けかもしれないし、多様性を認めていないのかもしれない。
一方で、とても人数の少ない組織だと、
最低限の主体性を持って欲しいなという気持ちもあり・・・。
今現在も自分の中で葛藤しています。
組織を作り始めるときにやったことは、
決して悪いことではなかったけれども、課題もある。
「みんな同じ考えを持っていて、頑張る人じゃないとダメよね」というふうに
捉えられている可能性もあります。排除の構造はつくりたくないんですけどね。
じん
なるほど。
ひろねー
結果的に、保育園に残っているのは、
制約さえなければ、自らバリバリ頑張ることができる人ばかりです。
そのこと自体はとてもありがたいことですが、
いろんなタイプの人がいる状態、価値観の多様性がある状態にはなっていない。
言ってることと、やってることが
ずれているんじゃないか・・・と反省してます。
じん
難しいですよね。
僕も、お客さんのところで組織について語りながら、
「理想を掲げてるけれど、じゃあ自分の組織はどうなの? 自分自身はどうなの?」と日々振り返させられますよ。
ひろねー
そうですよね~。
失敗を許す組織、隠そうとする組織
ひろねー
最近ふと気づいたことがあるんです。
失敗して「あ、ごめーん」と言うのは、保育園の中で私が一番多いんです。
ドジをしたり、ウッカリしたりすることが多くて(笑)
最近、採用面接の際に応募者に言われたのですが、
一般的に、上に立つ人は簡単に「ごめん」と謝ったり、
自分の失敗談をブログに書いたりしないものかと思っていた、とのこと。
私は自分のダメさを共有することがあまり気にならないんです。(笑)
失敗は共有した方がいいし、率先して口に出すことで、周りも失敗したときに言い出しやすくなります。怒られるのが嫌だとか、怒られるから失敗しても黙っていようという状態にならずに済んでいると思います。もちろん、人にも拠りますが。
じん
それこそまさに心理的安全性の話ですね。
失敗が許されないカルチャーだと、失敗を隠そうとする。
そういうカルチャーの会社って多いんですよ。
失敗を隠すカルチャーの会社では、
いかに自分が失敗してないかというストーリーを考える。
つまり、自分自身の安全を守るために、
言い訳をすることが当たり前のようになっているんです。
メンバーが自分の安全を守らなくてはいられない・・・
チーム内の心理的安全性が保たれていない組織が多い。
先ほどのひろねーの話のケースは、それとは真逆ですよね。
トップの人(=ひろねー)も失敗しているし、「ごめん」と言う。
まわりも気負わずに、「ごめん」と言いやすいカルチャーになっていますね。
ひろねー
そうですね。
自分から、みんなに、お願いごとをすることも大切だと思っています。
“こうあらねばならない幻想”
じん
「リーダーは○○でなくてはならない」という“こうあらねばならない幻想”に囚われてる人は完璧を求めます。
「リーダーは完璧でなくてはならない」
「誰よりも一番できる人でなくてはならない」
そのような幻想は意味がない。むしろ周りの人を萎縮させてしまいます。
ひろねー
教育全般に、「教育に関わる人は、その人自身が模範的でなくてはならない」という幻想があるように思います。
保育業界は、子どもの育ちを支援する仕事です。
「保育に関わる人は良い人でならなくてはならない」
「子どもの育ちに関わるのに、いい加減なことは許されない」
「ミスは許されない」・・・
等々の“こうあらねばならない幻想”におおわれている気がします。
それって息苦しい。いいじゃないですか、適当で(笑)
じん
たしかにね~。
ひろねー
子育ても、「こう育てなければならない」と思った瞬間に苦しくなりますよね。
“こうあらねばならない幻想”は、生きていく上でそんなに必要じゃないと思います。
じん
必要かどうかは組織や人によると思いますね。
“こうあらねばならない”があった方が楽な人もいますよ。
ひろねー
へぇ、そうですか。
じん
あくまである1つの視座においてという意味ですが。
僕は楽じゃないし、嫌ですけどね。
それぞれの人が大事にしている軸があり、
その軸が結果的に自分を息苦しくしていることもあるけれど、
息苦しくなった時には本質に立ち返って理解し直せばいいと思います。
みんなが少なくとも自分自身を苦しめること無く、
Happyに生きていける社会を育んでいきたいですね。