第85回『コミュニケーションデザインの研究と実践(2)親も行きたくなる保育園と早く帰りたくなる保育園』
2018年06月28日
今回からは大塚裕子(ひろねー)さんをお招きして対談をお届けします。
「コミュニケーションデザインの研究と実践」をテーマに、
複数回にわたってお話を伺っていきます。
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大塚裕子さん(写真、以下ひろねー)
保育理念は、とても重要だと思っています。
はこだて未来大学の教員を辞して厚木に戻り、保育園に勤務することになったとき、園には理念が無かったんです。
当園が認可保育園になった3年前、認可手続きとして必要な保育理念はありましたが、あくまでも書類上のもの。例えば、自分が学校に通っていた頃を振り返ってみても、小学校・中学校の教育方針って、あまり記憶にないと思いませんか。その程度のものが並んでいる状態でした。
でも、理念って実は保育実践の行動指針になる重要なものですよね。私たちはこういう子どもを育てたいという園としての宣言でもある。そこで、保育園の運営が代替わりしたとき、元々あったお仕着せの保育理念ではなく、「自分たちで理念を作ろう」と職員に働きかけたんです。
2年前に、新体制で新年度が始まるとき、全員参加の園内研修を開いて、保育士さんたちに「どんな保育したい?」と質問し、洗いざらい出してもらった上で、個々の考えや意見を包括するような、今の保育理念「チャレンジする心、チャレンジする子を応援する心を育む」を作りました。
河村 甚(以下じん)
いいですね。
ひろねー
そのおかげで、みんな理念に掲げていることの具体的なイメージを持っているし、お互いに共有している。だから、ぶれずに個々にも保育実践ができているのだと思います。
じん
保育園としての保育士さんの人数は何人ぐらいなんですか?
ひろねー
理念を作ったときは7人。今は出たり入ったりがあって6人です。これがね、なかなか難しいのですが、理念に基づく実践を進めるうちに、新しい流れに合わない人が辞めてしまうということが起こりました。採用問題にも関わることですが、理念を理解して実践できる人材を育てる、あるいは確保するって難しいですよね。
じん
難しいよね~。
我が家には、3歳の弟と、今春保育園を卒園した姉がいるので、
リアルに響きます。
弟と姉は、向かい合ってる別の保育園に通っていたんですけど、
実践や運営方針が全然違うんですよ。
姉の方の保育園には、親も行きたくなるんです。
一方、弟の方の保育園は、できるだけ滞在時間を短くしたくなる。
そう言う感じなんですよね。
ひろねー
うんうん。それは通園している間、変わらなかったですか?
じん
うん。変わらなかったですね。
というか、正確に言えば、
姉の方の良い保育園は、園長が代わって、
さらに頑張ってる感が伝わってきますね。
若い園長で、頑張って新しいものを取り入れたりだとか、
とても勉強していて、園のレイアウトをちょくちょく変えたりとか、
こういうおもちゃがいいとか、すごく頑張っているのが伝わってくるんです。
同じ園の中でも、園長が変わることによって保育園が変わっていく様を
目の当たりにしました。
園の方針が変わると、いろいろ変わるんですね。
ひろねー
そうなんですよね。園長の方針や熱意はすごく重要。
以前、今の話をじんさんから聞いたとき、当園の保育士たちに伝えて尋ねたんです、「どう思う?」って。保育士たちは、「それはもちろん笑顔で、子どもの良いところを伝えられる保育がしたいですよね」って言ってました。
新しい理念をみんなで作る
ひろねー
じんさんのお嬢さんが通っていた保育園は元々良かったから、新しい園長が来たときに、もっと良くなったんだと思うんですけど、
私自身、保育園をより良くしたいと思うときに気を付けていることがあります。
それは「独善的にならないように」ということです。
自分ひとりでつくった理念を、トップダウンに伝えることはしたくなかった。それで、保育士さんたちと一緒に作りました。保育理念を作るのと同時に、デトックスもしました。自分の親がやっていた保育園なので、新体制になったときに「今まで何が嫌だった?」って、保育士さんたちに質問したんです。
じん
なるほどね~。
ひろねー
立場上、私が聴くだけではみんな遠慮すると思ったので、むしろ先頭に立って「私としてはこういうところが嫌だった」と率直に喋りました。実際、それまでの実践や運営におおいに問題意識を持っていました。その発言をきっかけに保育士さんたちから、
「こういうことが嫌だった」
「『危ないから、これをさせちゃだめ』とか『これをやらせなさい』と言われていたことって、子どもたちに制約をいっぱい与えることになっていたと思う」
「もっと子どもに主体性を持たせたいなら保育士が何でもやるべきではないと思う」
というようなことが、どんどん出てきたんですよ。
じん
へぇ~!
ひろねー
それで、みんなが話してくれることを、その場でパソコンで入力して、大画面のモニターで共有しながら、「問題点は共有できた。じゃあ、改善するためにどうしたらいいかな」「どう理念を作っていったらいいかな」ということを話し合いました。今、職員会議もこのスタイルです。問題を共有して、その問題に対する解決案を話し合って、解決案(=自分たちが望む保育実践)を総括する理念ができた、という感じですね。
“落下傘”の難しさ
じん
ちょっと改めて確認したいんだけど、
ひろねーの立場ってどうなんだっけ?
ひろねー
今は副園長。弟が保育園の園長であり、社会福祉法人の理事長です。現場の取り仕切りは、主に私がやっています。
じん
なるほどね。実質園長の副園長、って感じですね。
ひろねーは最初からその園でやってきたわけではなくて、
ある意味「落下傘園長」みたいな感じじゃない?
それって、結構難しいと思うんだよね。
よその会社でもよくあるケースですが、
突然雇われ社長が入ってきた、とか
突然業界他社で修行をしていた社長の息子が入ってきた、とかいうとき
「何者が来たんだ」的な感じになるじゃないですか。
ひろねー
なりますよね~。
じん
ひろねーの場合なら、「ふーん、大学の先生なの?」みたいなね。
ひろねー
ありましたよ、実は弟から(笑) 母親から代替わりして園長をやっている弟が、私に対して防御姿勢だった。保育士さんたちよりも、弟の信頼を得るのに時間が掛かったかな。
じん
あ、そう! へぇ~。
ひろねー
弟が事務を取り仕切り、母親が園長をしていた保育園だったのですが、私は最初は調理の立場で入りました。大学から保育園に移った時点では、保育士の資格を取得できていなかったので、まずは調理スタッフとして。そのおかげで、保育の様子を客観的に見ることができた。
函館から帰ってきたものの、その頃は当時の園の様子を見ていて、自分が園長をやりたいというビジョンが持てず、調理という立場から保育士さんの愚痴を聴き、問題を共有するという1年間でした。母親と弟のマネジメントのもとで、保育士さんたちが働きにくさを感じているのもわかりました。
「すごくやりにくい」「何でこういうことをしてはいけないんだろう」
そういうことを保育士たちから自然に聞かせてもらえる立場にいられたというのは、結果的にとても良かったと思っています。
この1年間を通じて、保育実践の方針、職員マネジメントや運営に問題があるということを認識することができました。
じん
なるほどね~。それいいですね。
ひろねー
保育園の世界ってね、個々の能力は別として、制度的には保育士さんは立場が上で、調理は低い立場なんです。具体的には、保育士資格の所有者には補助金が出るけれど、調理スタッフは、たとえ調理師資格を持っていても補助金が出ない、のように。
で、弟がことあるごとに、「姉は大学にいたかもしれないけども、ここでは一番下の立場だから」ということを園内外の人に言ってたんです。その頃は聞くたびにカチーンときたけど(笑)、保育士さんにとっても、それが良かったのかなと今は思っています。
そんな背景もあって、保育士さんたちにとっては、突然偉い人が外から来たという落下傘型ではなくて、元々同僚だった人と一緒に保育園を作っているという感じだと思いますね。
じん
なるほどね~。その形はいいですね。
ただ、その形なら必ずうまくいくかというと、そういう訳でもないよね。
ひろねーのキャラだから、最初調理で入って、
後から副園長になっても、親しみを持ってもらえるけど、
人によってはそうはいかないよね。
ひろねー
確かに。このスタイルは私には合っていたけど、タイプによっては回り道かも。できるなら、最初から落下傘型で組織に入って、組織作りをきちっとやってもいいと思う。正解は無くて、個々のスタイルですよね。
じん
普通の会社でよくあるのは落下傘型。
今の社長が結果を出せなかったから辞めさせて、
例えば「某社で実績を上げた経験がある」という社長をポコンと入れて、
やり方をがらっと変えて、
会社全体を変えるというやり方をしようとするところが多い。
でもね、そういうパーツをスポンと入れるやり方って、うまくいかないなーって
思ってたんですよ。
今話してくれた、ひろねースタイルって、すごくアリだよね。
ひろねー
なるほど。でもね、今回、結果的にはうまくいったけど、今後、自分としてはよく考えないといけないなぁと思っている課題もあるんです。