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第76回『会議でチームビルディング(3)ファシリテーターのパワー(前編)』

2018年02月22日

チームビルディングの話をしよう
2015年4月から始まった連載コラム「チームビルディングの話をしよう」では、
代表河村がチームビルディングを切り口に
さまざまなテーマでいろいろな人と話し合った様子をお届けしています。

今回の『会議でチームビルディング』は、株式会社 Dialogic Consulting 代表取締役社長

吉田 創(そう)さんをお招きしての対談です。
http://www.dialogic.jp/
 
そうさんは現在、対話型組織開発コンサルタント・ファシリテーター・講師としてご活躍中であり、
会議で行うチームビルディングプログラムをチームビルディングジャパンと共同開発しています。
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目次

 

吉田 創さん(写真右、以下そう)
人材育成のために殴る蹴るしていた師匠の師匠にあたる方は完全にダメだとして、師匠がやってきたことも倫理的にどうかと思う面があります。

人に本気で関わっていくという点で、師匠に嘘はなかった。
彼自身は本気で関わることで、人とグループの成長に寄与できると信じていたし、そうしていました。
僕も彼から学んだことがたくさんあります。

でも、トレーニングの中で本気で人に関わっていくことは、今はできませんね…。パワハラになってしまう。

河村 甚(写真左、以下じん)
なるほどね。

そう
僕はある意味、振り切った方から学ぶことから始まったので、「これはいけない」というのが自分の中にはあります。

振り切った人から学んだからこそ、「越えてはいけない一線」を常に認識しておきたいんです。

じん
そういう世界に深くのめり込んでいってしまうほどの魅力ってなんだったの?
そうさんの中のどこに響いてのめり込んでいったの?

そう
そうですね・・・。最初は、自分自身が生き方や仕事を模索している時期だったので、次は「育成を仕事にしたい」という気持ちがありました。

自分がそれまで意識してなかったところが見えるようになり、気づけるようになり、それを人やグループに対して問いかけやフィードバックをすると、その人たちのモノの見方や感じ方が増えていくような感じがあって、「こういうこと大切にしたいな」「こういうこと大事だな」とか「こういうことは止めてみたいな」「こういう自分でいたいな」と気づいていける。その援助ができているのは嬉しかったですね。

また、一歩踏み込むことによって、人やグループに気づきを与えられるという心地よさを感じていたというところもありました。
今考えると、「そこなの?」みたいな感じなんですけど(笑)

じん
なるほどね。

 

「越えてはいけない一線」

じん
さっき話していた「越えてはいけない一線」って具体的には何ですか?

そう
ここは臨床心理士等の専門家が語る領域だと思うので、僕が軽々しく語っちゃいけないな・・・という気はするんですけど、

僕の中では、分かりやすく「できないしやらない」と決めた3つのルールがあります。

まず、治療は絶対できない。
次に、家族的関係になることもできない。
それから、金銭的援助もできない。

もしこれらのルールに触れるようなことであればお断りしよう、求められたとしてもお断りしよう、と自分の中で決めました。

じん
うん。

そう
もう少し説明すると、ファシリテーターやコンサルタントという人たちは、そのグループの中で“ランク”が高いと思うんですよ。

そのランクの中で、人に対して、「思うことがあるんだけど、君に言ってもいいかな?」と投げ掛ければ、大体「はい」という返事が返ってきます。

大丈夫でなくても、大丈夫と返される構図とあまり変わらないですね。

そうすると、本人はもしかしたら望んでいないかもしれないのに、こちらから一歩踏み込む感じになる。場合によっては、えぐることになります。

じん
立場自体にパワーがあるからね。

そう
そう。最初のころの自分は、そのパワーがあるということをきちんと解ってはいませんでした。
僕の師匠も解っていなかったと思います。
もちろんご本人は本気で「人と人として関わっているんだ」と思ってるんですけど、でも構造的に場を見たときに、やっぱり高いランクで存在している。

さまざまな働きかけは、そのランクだから言えていることなのだと気づいたときに、このランクとパワーを自覚してないのはやばいな、と思ったんです。

じん
うんうん、わかる。そうだよね。

そう
そう考えていたある日、師匠が脳溢血で倒れました。

師匠は倒れた後も、ご自身が「やりたい」と言って研修を続けました。

僕からはだいぶ無理が見えるので、「そろそろ引退を」と伝えたのですが、「俺がやりたくて何が悪い」とおっしゃるのです。でも、それだと学習者の支援にならない。

「自分がやりたい」ということが前面に出てしまうと、ランクとパワーに対する配慮やケアみたいなものは、もっと出来なくなるなと思ったんです。

このタイミングで、師匠の元から離れることにしました。2012年のことです。

 

ランクとパワーの使い方

そう
師匠から離れて、改めてこの業界を見渡してみると、「人のため、組織のため」と言いつつ、ランクとパワーに意識なくやっている人たちが目に付くようになりました。

人を支援するファシリテーターやコンサルタントは、自分の役割、立場とそれが及ぼす影響に自覚的であるべきだと僕は考えています。
あえてランクやパワーを使う場合も、もちろんありますけど。

じん
組織に何らかの変化を起こそうとして関わっているわけだから、変化を起こす関わり掛けをする時に、パワーとランクを使った方が効果的なことはある。
実際、自分自身も使ってる。使うこと自体は悪くない。
でも、使い方とか、どういう力なのかを解って使っているというところが全然違うかな。

そう
そこに対する配慮とかね。

じん
関わりかける側が意識していないと、えぐるだけえぐり散らかして終わり、っていう事も起こり得るよね・・・。

参加者の内面に踏み込んでいくと、参加者はすごく響いた感じとか変化した感じが得られるから、一見満足したように見える。

でもえぐるだけえぐって、えぐり散らかして、その後どうすんの?ってことになっちゃう。

どこまでえぐっていいかどうかの線引きは、その後の責任を終えるかどうか、じゃないかな。

自分が責任を負える範囲までは踏み込める。
でも一生面倒見ていくつもりもないのに、安易にそこまで深く踏み込むというのはまずい。
そこに線引きがあると思う。

そう
こちらは良かれと思ってやったことでも、結果として相手が精神的にまいっちゃったり、チームの関係を壊しちゃったりということも、あり得なくはないですからね。

じん
そうだよね。

 

ファシリテーターの倫理

そう
だから、「越えてはいけない一線」ってあると思うんです。職業倫理とでもいいましょうか。

ただ、社会人の人材育成も組織開発も、ファシリテーターやコンサルタントの倫理規定の議論がないのです。

そのため、分かりやすい指標として、先ほど挙げた、
・治療はできない ・家族になることはできない ・金銭的援助はできない
という3つのルールを僕は決めているんです。

じん
なるほど! たしかに。

そう
例えば、医者という立場だとしたら、そういう専門的な勉強をしてきているのわけですから、患者のことを考えて、あえて踏み込むということもできるのかも知れません。

自分の場合は医者ではありませんから、本人が本当に望んでいるかどうかで判断するしかない。

でも、ランクのパワーによって、本人が本当に望んでいない場合でも「はい」と答えちゃったりしますから、そこが難しいですよね。

じん
こちら側というか・・・ランクを持っている人は、
参加者に「はい」と言わせる問いかけもできるしね。

そう
そういう難しさを、いろいろと痛い思いをしながら学んできました。

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