第56回『チームビルディング研究会(5)余計なことがイノベーションを生む』
2017年05月18日
今回の『チームビルディング研究会』は、本コラムで初めて2名のゲストをお招きしての対談です。
中島 久樹氏(マナビクリエイト代表 http://manacre.com)
大橋 正司氏(サイフォン合同会社代表社員兼CCO http://www.scivone.com/)
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身体知
中島久樹さん(写真右、以下なかしー)
今ね、「身体知」って言葉が出てきていて
「身体知」ってすごく大事だなと。
河村甚(写真左手前、以下じん)
身体知。
なかしー
「身体知」。それは体が感じること。体が知っていることですね。
大橋正司さん(写真左手奥、以下大橋さん)
例えば物を持ち上げるという動作をする、
その何秒前からすでに体が動き出しているということがあるわけですよね。
つまり、頭で考える前に体が動いていることが、実際にあるわけです。
体が保持している情報、身体が司っている部分っていうのは普段考えもしないけど。
じん
まぁ、でもそうですよね。ちょっとレイヤーが違うかもしれないけど、
行動した後に理由を後付けするみたいなことは、日常の中によくありますよね。
大橋さん
ありますね。
じん
でもそれって、なぜその行動をとったの、って
後から考えるとこうだ、っていう理由を後付けして、
こう考えたから、って
ほんとは考えてなかったけれど理由を後付けすることはあるし
ある意味それって
言葉で表現しようとしたときに初めてそこに意味が乗っかるということをせざるを得ないというか
社会というものがあるから、他者との関係性があるからそういう風になるんだろうし。
大橋さん
この間NHK将棋の特集があって
プロ棋士の人たちは何百手先まで考えて将棋を打ってるんだ、っていう先入観に反して、
どちらかといったら直感の方が強かった。あまり考える頭は使ってなかった。
じん
ある意味、それができないと、
将棋のようなものすごい分岐の幅が広いときに
すべての選択肢を検証して一つを選べ、ということがほぼ不可能に近い世界なんじゃないかと想像するんですよね。
素人の簡単レベルならできるかもしれませんが、
プロの世界だと、そんな全ての選択肢を比較して最適なものなんて出せない。
まぁ、機械は出せるかもしれないけど、人間はそういうことをしない。
大橋さん
大体その状態に達することができる(考えることをせずに直感で判断がくだせるようになる)までには10万時間が必要だと言われているらしいですね。
その作業を続けている。
じん
考える、というところじゃないところで処理できる状態になるまでに、10万時間。
10万時間。想像つかないな。
大橋さん
要は、専門家がプロとして判断を下しているときというのは
そこに理論は乗っていない瞬間というのがあるということです。
チーム直感力
なかしー
そういうのがチームにもあると思うんですよ。
チームで活動していくとチームの直感みたいなものが出来てきて
みんなで「これしかないよね」っていう空気感が出てくる。
一人ひとりのコミュニケーションがシナプスのように密に取れている。
そういうコミュニケーションを長時間とりつつあることで
達成できる状態なのかなと思いました。
そういう意味では、チームビルディングはチームとしての直感を鍛える行為でもありますね。
じん
チーム直感力、ってことですね。
なかしー
これからのカオスな社会では、イノベーションとか言われてますけど、
イノベーティブなチームはチーム直感力が高いチームだと思います。
大橋さん
要は、頭の中だけで考えて結論を出そうとするチームより
わーっとやったチームは、一見めちゃくちゃなんだけど、
わーっというチームの方がおもしろい結果に辿り着く。
なかしー
つまりね、
チームでワチャワチャやっていることがイノベーションには必要。
ワチャワチャやっている=あそび。
だからイノベーションにはあそび、無駄な時間、余白が必要ということです。
なのに、失敗しないような、予定調和じゃないですけど、
会社は「事例はどこにある?」「失敗するな!」そんなことばっかり言っている。
口で言わなくても、文化とか空気感がそうなっている。
ちなみに、さっきネットニュースの記事で「人を説得する際、欧米は原理を根拠に話すけど、日本は事例を根拠に話す」という記事がありました。
日本は人を説得する際、事例を根拠に話すか、
(エリン・メイヤー)
新しいことをするときに「事例はあるのか?」というのは、いかに遊びの要素を少なくするかってことです。
でも、イノベーションのバロメーターは遊びをどれだけ取り入れるか、ということでもあります。
失敗が遊びだったなら、失敗をKPIにすればいいじゃないですかとも思います。
大橋さん
さっき、見立てるという話がありましたけど、
事例を出せ、というのは見立てない、ということです。
それそのものと同じことをやるということ、
他の物で考えてみる、というのは重要な能力ではありますけど、
きちんと原理原則まで抽象化する能力が働いていればの話ですよね。
「風姿花伝」の「秘すれば花」みたいな話です。
似たような話がAI研究であるんです。
機械に言葉とか、言葉の意味とかこれとこれが関係しているとか覚え込ませれば、
機械も言葉を話せるようになるはずだ、みたいな。
人間は機械のようなものだ。
言葉は辞書のようなものだ。
だから、機械で人は再現できるはず。
だから、辞書をいっぱい入れれば辞書の通り動くはず。
大事なのは、一歩外れることなんですけど。
まったく違う現象を見ているかもしれないのに、
過度のアナロジーだと思い至らずに、そのまま突き進んでしまう。
たまたま辞書という言葉で説明されただけかもしれないのに、
他の可能性があるかもしれないのに・・・・・・
じん
そうですよね、うん
大橋さん
非常に危険なんですよ。
じん
さっきの菜の花の話もそうですよね。
辞書が人によっては違うかもしれない。
大橋さん
人間は機械ではない。でも繰り返すんです、この流れというのは。
デカルトの頃というのは、人間を機械で再現できるに違いないと。
で、何十年かけて失敗するわけです。
コンピューターが出てくると、
人間はコンピューターの仕組みで再現できるに違いない。
そして、当然それも違うわけです。
なかしー
「再現できる、かもね」と捉えればいいんですけどね。
「IF」仮定が事実になる
大橋さん
いつのまにか、そこにある「IF」、単なる仮定だったものが事実になってしまう。
じん
それがあたかも絶対的なものかのように・・・
大橋さん
・・・扱われてしまうことがある。
じん
そればっかりに没頭してやっていると、そうなっちゃうんだね。
大橋さん
そうなんです。
じん
ある意味、遊びのない状態というかね。
なかしー
「IF」の話をちょっと拡張すると、おそらくこの世の中はこう進んでいくだろうという「IF」が昔は20年間同じで良かったんですよね。洗濯機とテレビと冷蔵庫を作っておけば売れる!そんな「IF」がかなりの長い期間続くことができた。
でも現代の「IF」は3ヶ月だったりします。
おそらくこれが求められるよね!という「IF」がたった3ヶ月で次の「IF」に変わったりする。仮定が変わるスピードがめっちゃ早いのが現代の特徴だと思います。
だからこそ途中で立ち止まり振り返ることが大切。本当にそうなの?と。まさにリフレクションです。
ただ、ずっと立ち止まってても進めないので、あるところで仮定のもと走る必要がある。
しばらくはこの「IF」で大丈夫なはずだ!よし、3ヶ月走ってみよう!と。
つまり、リフレクションと実践の繰り返しなんですよね、必要なのは。
余計なことをやる
じん
今の話を聞いていて「リフレクション」と「遊び」が結びついたのですが、
「遊び」って余計なことじゃないですか。やらなくてもいい、余計なことをやる。
例えば「仕事」と仕事の「リフレクション」を考えてみると
「仕事」は「やらなくてはならないこと」で、
「リフレクション」は本来やらなくてもいい「遊び」の部分。
だけど「遊び」があることで、実は大きく結果が変わるんです。
チームビルディングをアクティビティを使って行う場合に、
「このフラフープをより速くくぐれるように頑張りましょう」など
何かの疑似体験アクティビティをやるわけです。
ああしよう、こうしようと意見を出し合いながら
参加者は真剣にアクティビティに取り組むわけですが、
ブレイクスルーが起こりやすい瞬間ってどこにあるかというと、
実は、一度ブレイクを挟んだときに起こりやすいんです。
休憩時間にフラフープで遊び始める人がいて、
それまでとは全然違うことを試したりする。
そうすると、ブレイクスルーが起きやすくなる。
なんでそこでブレイクスルーが起こるのか考えてみると、
本人はやりたいからやる、ということ以外にないんですよ。
休憩時間、つまり自分たちの自由な時間。
やらなくてはならないから、ではなく
やりたいからやる、おもしろいからやる。
やりたいからやる「遊び」を始める人は10人のうち3人かもしれない。
やりたくない人はそこにはいない。
やりたい人しかいないからすごくうまくいくんだな、と感じるんですね。
だから、もしかしたら、
リフレクションもやらされ感、つまり仕事の一環として・・・になってしまうと全然ダメで、
楽しいからやっている、「遊び」としてやって、
その「遊び」にこの指とまれ、でとまってきてくれる人たちがいれば、その人たちはどんどん加わればいいし、
逆にやりたくない人は入れない。やりたくない人を入れちゃうとうまくいかない。
そんなことを感じました。
大橋さん
そうですね。あとはみんな直線的に考えすぎるんだと思うんです。
仕事はそんな直線的には動かない。
求められた一点、成果を出すのは本当に大変で、ストレスがかかることだと思うんです。
それがいかに不自然なことか、もうちょっと意識していくと楽になる。
なかしー
今のビジネスモデルは、人にとって不自然。
人間中心、ヒューマンセンタードに立ってない。
大橋さん
立ってないと思います。
大量生産のベルトコンベアの延長上・・・
物であれば一直線上に考えられるかもしれませんが。
『フォークの歯はなぜ4本なのか』という本があるんですけど、
人類史が始まってから現在に至るまでに、
食べ物をすくって食べる現在のフォークができるまでを調べた本なんです。
木の枝で指していた状態から今のフォークに至るまで、理路整然と
分かれてた方が刺しやすいとか、曲がっていた方が落としにくいからとか、
ロジカルな理由があって、最短距離で今のフォークの形になった
あるいはiPhoneみたいに天才がいて、
フォークにブレイクスルーが起きて、突然フォークが変わりました、
というようなことを思いがちなのですよね。
じゃ実際、有史始まってから今までの中で、フォークのバリエーション、いろんなフォークが発明されてきましたが、その総数はどれくらいだと思います?
じん
その総数の統計があることにまずびっくり(笑)
大橋さん
それを調べた人がいるんですよ。
じん
すごいですね?
現状のフォークから過去にたどっていく訳ですよね。枝分かれしている物も含めて。
うわ、想像できないなぁ
大橋さん
大体4,000種類ぐらいと言われているんです。
直線的な物の考え方をすれば、「10個かな・・・」と思うけれど。
最短ルートをたどるならそのくらいかな、とかね。
でも、たかがフォークですが、4,000以上のバリエーションがあるわけですよ。
じん
元はフォークと起源が同じだけど、今は全く別の物になっている何かとかもありうる
大橋さん
さっき系統樹的な話をされていましたけど
後からたどったときに、こういう風に進化してきた
後付けで、全く関係のないものなのに、
そこに理由があって直線的に進歩してきたように見えてしまうことがある。
どこのコンテクストで切るのか
どういう系統樹を作ったらいいのかっていうのは
本当に今議論になっているような話なんです。
じん
そうか、つまり
分類するときに系統樹っていうか、そういう風に切り分けないと分類できないわけですよね。
どう切り分けるべきなのか、という話ですよね。
大橋さん
だから、人間の進化の歴史っていうのは、
4,000個のバリエーションを生み出すために
いろんなもう無駄とも言えるような試行錯誤のなかで、
揺り戻しもあるし、突然変異もあるし、
その中で、今があるわけです。
じん
さっきの、日本人って過去の前例に基づいた、これが絶対成功というパターンに当てはめて全部やろうとするけど、実際はぐちゃぐちゃの過程で、
後から整理するときれいな樹の枝になっているけれども、
元々そうじゃないぐちゃぐちゃのものが、たまたまこういう結果になった、みたいなね。
組織作りをするとき、話し合いがすごく大部分を占めるんですけど、
その話し合いの時に、話し合いの中で、こう、いかに進化を起こすか
それは生物の進化みたいな感じで、いろんなアイデアとアイデアが交配し合った感じ
その時にすごく大切にしているのは
その中での発信量と、
交配が多く起きるために、他の人のアイデアとアイデアを掛け合わせられるかどうか
交配が起きないと新しいものって生まれないんですよ
誰かの一人のアイデアだけで突き進んじゃう
トップダウンで社長の言うことをはいはい、と聞いているところは
全く交配が起こらないので、新たな種が生まれてこないんですよ。
新たな種が生まれてくると、
すごくその量が多いし世代交代が多いんですよ。
たくさん種が増えてくるとその中で選択できないんじゃないかと思われるかもしれないけど、
ものすごくたくさん自然に淘汰されていくんです。
要らないものが自然に淘汰されていって、
みんなが共感していいね、いいね、となるところだけ話がどんどん展開していくので
そこだけすごく進化していくんですよね。
そういう生物の進化のような過程が
話し合いの中でちゃんと起こると
それが結果的にイノベーションにつながったりとか
それこそ自分たちのコアを見つけることになっていったりとかする。
ほんとにフォークの例え、すごくよくわかります。
回り道も全部大事
大橋さん
会話全体を100とすると
最短経路だけ見ていくと、おそらく5%とか10%くらいのはずなんです。
でも、回り道も全部大事なんです。
じん
最短経路でフォークができた訳じゃないよ、と。
なかしー
そういうのって、不確実性を許容できるか、信じきれるかどうか、だとも思いますね。回り道も大切だってこと。
大橋さん
不確実性といっちゃうと、ちょっと抵抗があるかもしれませんが、
今したような話に乗せて考えると分かりやすいかな、と思うんです。
じん
企業、組織だとほんとにそれが出ますよね。
なるべく最短経路でという風に考えてしまうようなところとか、
不確実性を信じきれないということなのかも知れませんが
異なる物が混じり合うっていう
異種交配を起こさないように、起こさないように、という選択がすごく多いんですよね。
だから我々が入っていって、組織の中でチームビルディングをやるときは
なるべく異なる物を混じり合わせるようにとか
ブレストルールってあるじゃないですか
あれって話し合いを進化させていく
ブレストルール・・・とにかく質より量とか、便乗するとか
すごく素敵な要素があって
そういうことをちゃんとやっていかないと
やっぱりちゃんと残ることが生まれてこない
社長の言うことだけ「はいはいはい」と聞いていれば給料は出るかも知れないけど
生き残っていく種は生まれてこない。
なかしー
ですね。
ただ、企業によっては逆にそういう選択を取るのもありかもしれません。
社長の言うことを聞いてれば上手くいく!そういうビジネスモデルを持っていて、それで行く、となっている。それだったら、それでいいと思います。
そういうビジネスをやっているのに、「イノベーションがうちは必要なんだ!」となると、求められる体質が違うから非常にまずい。幸せではない。
イエスマンでもいいなら、別にそっちでもいいじゃん、と思いますけどね。
大橋さん
どっちなんだろうと判断するのは、非常に難しいなぁと
僕自身も仕事をしていて思うところです。
新規にサービスを作りたい、改善したい。
本当に改善したいのか、本当に作りたいのか、っていうのを
日本の組織は金太郎飴、誰かが作ったものを
作り続けることに特化しているところが多いので、
そういうところで「新しいものを探すための旅に出よう」というのは難しい。
そこで学んでるところが多い、というところで最初の話に戻っていくんです。
なにか新しい事業開発をするときには、
単に部署を作るだけじゃなくて、
組織のデザインをしないとこの壁を越えられない、ということです。