第53回『チームビルディング研究会(2)情報学とチームビルディング』
2017年04月06日
今回の『チームビルディング研究会』は、本コラムで初めて2名のゲストをお招きしての対談です。
中島 久樹氏(マナビクリエイト代表 http://manacre.com)
大橋 正司氏(サイフォン合同会社代表社員兼CCO http://www.scivone.com/)
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言葉=分類
大橋正司さん(写真左手前、以下大橋さん)
情報学と組織開発という領域は、実は隣同士、表裏一体なんです。
まず、そうですね、
「情報というものは、実は非常にファジーである。捉えどころのないものだ」という話から始めましょうか。
もう少しわかりやすくいうと、「言葉」って「分類」なんです。
乱暴な言い方にはなりますが、「言葉=分類」と言い換えても間違いではない。
河村甚(写真右、以下じん)
「言葉=分類」。それってどういう意味ですか?
大橋さん
たとえば、虹って何色ですか?
じん
7色。
大橋さん
即答できますよね。赤、オレンジ、黄・・・・・・と、日本は大体7色に分類しますよね。
でも他の国だと3色というところもあれば、十何色だというところもある。
僕らが白を見たときには、「これは白です」と言いますが、
雪深い地域に住んでいる人たちは「これは○○のような雪」などと言う。
雪の色がより細かく分類されている。言葉になっているわけです。
世界を分節化する方法は文化圏によって違うんです。
中島久樹さん(写真左奥、以下なかしー)
日本人とアメリカ人の味覚の違いみたいなものですか?
大橋さん
はい、味覚…旨味は英語に概念がないから英語でも「Umami」になってますよね。こうした例は枚挙に暇がない。
中島久樹さん(なかしー)
言葉で認知しているということですね。
大橋さん
認知しているものは同じでも、認識には微妙に変化があるということですね。
元々なにか白色という物があって、白という名前が後からついたわけではない。
最初に情報はファジーだ、と言ったのは、そういうところです。
じん
なるほど。人間がどう捉えるかというものに基づいて
分類された結果が言葉になっているということですね。
大橋さん
言葉によって我々は分類を認識しているんです。
ただ、このドグマが生まれたのは近代に入ってからなんです。
もちろんこれは、言葉が違えば考えていることも違うのか?と
大きな議論を巻き起こしました。多くの反論もあります。
じん
へぇー!
大橋さん
少し哲学よりの話をしますが、プラトンのイデア論ってお聞きになったことありますか。
例えば今ここに、イスがありますよね。
目の前にあるイスは「イス」のイデアの一部分が写像されたものである。
真の完全無欠なイスの概念を私たちは先に持っている。
だから今目の前にあるイスをイスだと認識できるんだ、という話です。
しかし、状況によってはその辺の切り株だってイスになります。
私たちはそうやって、文脈や文化、経験によって認識を変えることがある。
「イス」という固定的な概念が先にあるわけではないんです。
じん
たしかにイデアのフレームで説明されるとそれで納得しちゃいますね。
でも今の分類の話で捉えると、ある意味人間の都合で便利なように
決めているということですね。
世界は分類と認識で構成されている
なかしー
僕は「世界は分類と認識で構築されている」って感じているんです。
認識したからこそ存在し、認識しないと存在しないことになる。そんなイメージを持っています。
じん
納得です。
「白」としか認識できないとか。「こういう白」と細かい捉え方ができるとか。
それこそ日本の色彩感覚で表現される
他の人が言ったら単なる「赤」なのに何種類もあるというのも、
認識ですよね。どう捉えるか。
大橋さん
もちろんその認識に、「認知」要するに生体的・生得的な機能が
影響を与えていることは無視してはいけません。
じん
文化的に認識という前に、生体的な認知があるという訳ですか。
なるほどね?。
なかしー
例えば、薄い白、濃い白、青に近い白など、微妙に違う白が色々あるというのは無意識レベルでは認知していても、意識レベルでは全部ひっくるめて白と見なしている。
じん
生体的には「白」の違いは分かるけれど、
文化的にそれを分類する。
大橋さん
今は文化レベルの話をしましたが、業界や企業によってもそれは違うわけです。
それがとてもあやふやだということは、みんな普段は認識していない。
でも、違った分類を提示すると、即座に「違う」という反応が返ってきます。
どう分類されているのかは分かっていないけれど、とにかく違うことは分かる。
外国の方が日本語を喋っているときに「違う」と感じる、あんな感じです。
とてもシビアで、しかしファジーな分類=認識されているものを掘り起こして、
情報整理したり、その分類を作り直したり接続したりすることによって、
情報技術を使う人を生きやすくする、働きやすくする、価値を生み出すのを助ける。
それが私たちの仕事のひとつです。
組織開発と情報学
なかしー
組織開発ではこの観点がめちゃくちゃ大事だと思っているわけです。
例えば組織開発の取り組みでビジョンを扱うとしますよね。ビジョンって
さっきの「白」と同じなんですよ。
言葉としては「白」と表現されているけど、人によって「白」の見方は違う。
なので、「白」を分類して、いろいろ意味付けして、組織として認識して扱えるようにすることが非常に大事だと思います。
組織で扱う言葉って、こういう風にして組織内で主体的に意味を構築する必要があると考えていますが、その構築をサポートする、ファシリテートするのも、情報設計側からの組織開発へのアプローチの一つだと感じています。
じん
今全然つかめなかった。もう一回言って! もう一回。
なかしー
今の話って、モヤモヤしたものや、よくわからないものを扱うときの方法として
一般化できると思ったんですよ。
例えば「組織開発」って全体として分かっているようで、よく分からないですよね。
じん
「組織開発」がモヤモヤしたもの、ということですね。
なかしー
はい。組織開発、これをチームビルディングと言い換えても構いませんが、
では「チームビルディングって何なの?」ということなんです。
例えば「白」がいろいろあるということを組織として認知することで、
コミュニケーションができるようになる。
「俺らの組織の中に『白』ってこの3種類あるよね」という状態を
組織の中につくっていかなくてはならない。
それにうまく気づいてもらうため、
認知してもらうための支えというのが情報設計側の考え方なんじゃないかと。
じん
今2つのレイヤーの話があったのかな。
組織開発、チームビルディング自体が「白」である、
というバクッとしたものであるという切り口と
もう1つは組織の中の実状もバクッとしたもので、
それをきちんと整理する、またお互いに認知するということが、
組織開発につながる。
両方まさにその通りだと思う。
前者のパターンだと、例えばチームビルディングをやっていると、
お客さんから「チームビルディングしてね」
「うちのチーム良くしてね」という依頼をされるんです。
我々はチームビルディング専門会社なので、
「どんなチームビルディング?」っていろいろあるわけです。
でも、外から見ると、依頼する側からすると全然違いがわからない。
同じ色に見える。
我々からするといろんな「白」が見えているので、
お客さんとの共有を進めるうちに、
お客さんも、こういう「白」がいい、必要なんだとわかるようになる。
分かっていない人がいたら、お互いに同じものが見えるように、
共有していくっていうプロセスが一つのチームビルディングになるのかな、と。
なかしー
なりますね。
大橋さん
いろんな人が、同じ言葉で違う話をしていたりするので
そこの対立構造や、意味の構造を明らかにしていって
どう調整をつけますか、という。それを自発性と外発性を組み合わせて明らかにしていく。
ハード面が私たちの仕事で、ソフト面が組織開発。
だから両者はお互いに裏表だというお話をしたんです。