第34回『登山ガイドとチームビルディング(6)なぜ山に登るのか?』
2016年07月14日
※今回の『登山ガイドとチームビルディング(6)なぜ山に登るのか?』は、
第29回『登山ガイドとチームビルディング(1)背景』
第30回『登山ガイドとチームビルディング(2)なぜチームビルディングを始めたのか?』
第31回『登山ガイドとチームビルディング(3)経験から学ぶ』
第32回『登山ガイドとチームビルディング(4)人と関わり合う力』
第33回『登山ガイドとチームビルディング(5)関わり合いと社会づくり』
の続きとなります。
河村甚(以下じん)
今、人生の転機だよね。山のガイドとして仕事をしていこうと。そして結婚もしようと。
河野格(以下いたる)
すごいムチャぶりですよね(笑)
じん
そこに至る決断とかコミットメントとか、何かしらの選択があると思うんだけど、そこまで本気でやろうとしているものの裏にあるもの、自分の中にあるものって何かあるのかな?
いたる
なるほど! そうですねー……。そんなに強い覚悟とか、そういう感じでもないんですよね。
山登りが好きなので、それを活かしていこうかなというぐらいの。
じん
自然な選択。
いたる
ま、そういう感じですね(笑) 僕はなかなか好き嫌いと言いますか、割り切って仕事がすることがあんまりできない人なんですよ。関心のないこととか、ちょっと魂から離れていくようなことはできなくて。
自分の好奇心の近いところで仕事にしようと思っていて、自然に「山」という流れになっている。
じん
いいですね〜。自然な選択ができるって。
いたる
あんまり大きな決断をした、という感じではないですね。結果としてそうなるかもしれないですが。
じん
大きな決断ではない、ということはもともとのいたるの属性というか、自分らしくあることへの恐れのなさというか。自然な選択ができることも、らしさなのかもしれないよね。
いたる
まあ、良くも悪くもありますけどね(笑)
僕のイメージ、都留で残るって選択もそうだったんですけど、軽やかな感じなんです。「都留にのっころっ♪」みたいな。本来なら、「どうやって食ってくの?!」と誰しも思うのですが。今も「山やってこっ♪」みたいな。食べるための算段は後回しで、あくまでやりたいこと優先です。
じん
いいね。俺なんか選択のときにすごくコミットして取り組もうっていうのがあって、そういうのが好きなんだよね。やりきったときの達成感みたいな。
ま、選択はそんな感じだとして、山の魅力というかね、なんでそこにいるのか? 「好きだからやってこう」の「好きだから」部分をもう少し聞きたいなぁ。
いたる
なるべくぎゅっとお話ししていこうと思うんですが(笑)
僕もこれまで山登りをやってきて、なんでこんなに好きなのかなとか、なんで人に山登りを提供するのに関心があるのかなとか、怪我をしてからよく考えるんですよ。ホームページももうすぐできるんですが( ※現在は完成しています。「登山ガイド 河野 格」http://itarukouno.planet.bindcloud.jp/index.html )
なぜかなと思うと、山登りを終えたときの充実感ですよね。自分の足で行って自分の足で下りてくるという充実感を得る喜びを、すごくシンプルに体験できるんです。
低い山でも高い山でもいいんです。低い山でも自分の足で行って自分の足で帰ってくるのって、テレビを観て楽しいっていうのはぜんぜん違う。今日自分で一日完結したよという、自分で歩き通して自分でやったんだぞ、という充実感みたいなのがやっぱりあるんですよね。それをみんなと共有したいなっていうのがありますね。
それこそおんぶってやっぱりきびしいので、自分の足でなんとかしなきゃいけないので……。基本的には頼れないですし、自分の足で行って自分たちで帰ってくるところが山登りの醍醐味だと思いますね。
じん
そんな魅力のある山でチームビルディングプログラムをやろうよって相談するなかで、山とチームビルディングの親和性を感じたんだけど、山をチームビルディングの切り口でみると、どんなことがあるのかな。
いたる
山って一人でも登れるじゃないですか。でも、みんなで登ると結構楽しいし、喜びを共有できます。一人で登ると共有できないですが、みんなで登って喜びを共有できると、関係性が強く深くなると思いませんか。そうやって一つのことを、大げさに言えばみんなで成し遂げて、共通体験をしていくのって同じですよね、チームビルディングと。
課題があって達成するっていうのは大小ありますけど、みんなで一つのところに目指してみんなで終えるのって基本的な組織、チームで何かを成すということと同じだろうなということがあって、そこに親和性をすごく感じてますけどね。
じん
本当は、企業、会社の中の組織でも喜びを共有できるチャンスっていっぱいあるはずなんだけど、できてないという実感があるよね。
山やアクティビティプログラムの中では、喜びを共有する場面が色々ある。そういうなかで、山を登るという経験は、喜びを共有できるひとつのきっかけとしてもすごくいいよね。
いたる
いいですよね。あと山ってシンプルなのが目指すところが明確なんですよ。山頂、もしくは目指すと決めた場所。明確にしないと進めないんですよ。明確するからみんな同じ方向に進めるわけですし。なんかそれってシンプルですよね。目指すところがあって。
大きなプロジェクトの場合って目指すところがあって、目指してゴールして終えて「やったー」とわかりやすいと思うんですけど、日々の業務レベルも本当は目指すところがあるんです。だから、この業務をしてるんですよ。
登山の世界では、山々を繋いで歩く縦走というスタイルがあります。縦走は一つの山を登ったらまた下りるんですよ。丹沢山地なんかは40個ピークあるますから、つまり40のタスク、業務があるんですよ。
でも最終的に山中湖を目指すと決まっているから進める、40のピークを越えられるんですよ。チームとか組織も目指すところがわかっていると、足並みを揃えて向かえるよなーと。それって登山と同じよなあと思います。
じん
仕事だと目の前の業務に目を奪われて、喜びに目がいかなくなってしまうんだよね。どんな仕事も本質はシンプルだと思うんだけど、複雑に見えてしまったり、直近のものしか見えなかったりしてしまう。それが、山だとシンプルに疑似体験できるよね。縦走の話とか本当そうだよね。
いたる
さっきじんさんの言ってた「なんで登るの?」ってすごい大事だと思うんです。登りたくない人もいるわけですから。それ、良い問いですよね。登る前にその事業に対して「なんで登るの?」っていう問いがあっていいですよね。そこを深めて、もしくは対話をしながら「よし!登ろう」って行くのか、「これ登らなくてもいっか、こっち登ろうぜ」みたいな。そういう問いも含めて、すごくいいですよね。
じん
ある意味「なんで登るのか」を共有できているチームって登り方も違うし、登ったときの充実感や達成感も違うよね。
いたる
あと、いやいや登っていないですよね。嫌な体験になっちゃうと、山登りが嫌になるので、それはうまくないですね。やりながら自分を発見していく人もいますけどね。
じん
そうだよね。仕事のグチって絶えないじゃない、世の中。でも、もしかしたら自分なりの頂上を目指す理由、自分やチームや会社なりの「なぜ登るのか?」があれば、今この一歩はつらいかもしれないけど、でも「ここに向かっているよね」ということがあれば、かなり違うよね。
いたる
かなり違いますよね。僕は2つあると思っていて、ひとつは「なぜ登るのか」がわかっていると動きやすいですよね。やりたくない人もいるので。とは言っても現実の日本社会ではそうもいかないじゃないですか。もうひとつは「やるんだったらどこを目指すのか」がわかっていると、やりたくない人も動けますよね。その2つかなと思います。そこが山登りでは明確ですね。