第25回『アスリート育成とチームビルディング(3)企業のチームビルディングとの違い』
2016年03月10日
※今回の『アスリート育成とチームビルディング(3)企業のチームビルディングとの違い』は、
第23回『アスリート育成とチームビルディング(1)生きる力』
第24回『アスリート育成とチームビルディング(2)親はどう育てる?』
相馬浩隆さん(以下ヒロさん)
日本のスポーツ界では2008年にナショナルトレーニングセンターができて、ナショナルチームとしてのトレーニングがしやすい環境が出来たんですね。ナショナルチームって種目ごとにあるんですけども、ナショナルトレーニングセンターって種目ごとの練習だけじゃなくて、いろんな種目が集まるっていう機能も持っているんです。だから例えばバスケットボールのチームが合宿している時にタイミングが合えばバレーボールの人たちと交流するとかですね。
大きな大会へ行く前に集まって、出陣式みたいなことをやったりもできるようになったんです。最近はそういう機能もあって「チーム・ジャパン」という考え方が広まってきました。日本が一つのチームになって、みんなで頑張っていくんだという見方がされるようになってきたんです。だから大きな大会に行く前は様々な種目の選手だけじゃなく、コーチだとかの関係者も集まってチームビルディングをやったりするようになったんです。
河村甚(以下じん)
へぇ?。そこではどんなことをやるんですか?
ヒロさん
まあそんなに大したことはできないんですけども、体育館みたいな大きなスペースがありますから、チームビルディングでよく用いられるようなアクティビティを何種類かやってみて、それを振り返る中で選手同士が知り合ったりだとか、関係者同士で自分たちが目指しているものを共有したりだとか。そういう時間を作ったりしています。
じん
そういった共有は意義深いですね。
アクティビティをやった時の出来も良さそうですよね。
ヒロさん
やっぱりスポーツ選手なのでアクティビティやってる時の集中力が違うんですよね。ものすごく良く出来たりするんですよ。一気にコミュニケーションを始めて、一気に力を合わせて、一気に進んでいくみたいなイメージです。
じん
普通の企業でやるのとは全然違うんでしょうね。
例えば普通の企業でやっていると行き詰まったところからどうブレイクスルーして、乗り越えていくかというところがチームの変化にとっては重要なところなんですけれど、アスリートの集まりではその先へ抜けていく力が凄そうですよね。
ヒロさん
やっぱりスポーツ選手って、特にチームスポーツなんかそうだと思うんですけども、チームで成果を出すっていう事に半ば命を懸けているくらいに価値を感じてそこに関わっているわけです。一年一年、選ばれなかったら日本代表チームに参加する事も出来ないわけですし、代表チームに呼ばれるためには、自分が所属するクラブチームやそこでの自分が活躍していないといけないので、所属チームの力を上げていくことも必要になってくるわけです。
なのでチームのために何をすべきかみたいなことは身に沁みついている。そこについてはアクティビティであってもすぐに能力を発揮できるんだと思うんです。
じん
なるほど
ヒロさん
このあたりのところは企業とは全く違うところがあります。企業だと目標のために頑張るといっても、仕事としてかかわっている以上、「生活の糧を得るため」だと思って周りに合わせておこうとか、「人間関係を壊さないよう主張は控えよう」だとか、「チームのパフォーマンスが下がっているけど、2年ぐらいたてば苦手な相手が異動していくからそれまで待っていよう」とか、本当はここまでできるんだけどセーブして様子見をしようみたいなところが必ずあると思うんですね。そこがスポーツは違っていて、スポーツは自分の命を懸けるくらいに突き抜けていきたいと日頃から思っているわけですから、そこはやっぱり同じことをやっても結果も違うしプロセスも全然違うと僕は感じるんですね。
じん
そうですよね。
うちのプログラムってリフレクションで本音でしっかり話してもらいたいので、その為に前段階としてアクティビティでいかに本気になってもらうか、夢中になる状態をつくるかが大事なんです。そのためにファシリテーターは色々なアプローチでチームに関わりかけていくわけですけれども、本気の状態に入りやすい人たち、常に本気でやるのが当たり前になっている人たちだと確かにプロセスも結果も全く違うことになりますよね。
ヒロさん
そこはすごく重要なポイントですね。本気でやったのにできなかったというのと、できなかったけど本気出してなかったから、というのでは振り返りから得られることがぜんぜん違ってくると思います。
じん
他にはどんな違いを感じますか?
ヒロさん
あとやっぱりスポーツの場合は目標がシンプルですよね。スポーツは常に結果が出るので、今現在の自分の立ち位置っていうのも分かりやすいし、どこまでチャレンジする必要があるのかも分かっていて、例えば自己ベストを目指すとか、チームとしてここまで行くとか、目標を掲げてそれに向かって頑張っているわけです。けれど企業の人の場合、そういう分かりやすい目標を、今自分が目指すべき目標を具体化するのが簡単ではないことが多いと思うんです。会社として売り上げを上げるとかがあるにしても、それをブレイクダウンして自分の目標を立てるときに、チームで共有できる具体的な目標を持てるかっていうところが難しくて、そこがスポーツとは違うところだと思うんですね。
じん
そうですよね。売り上げ目標だって全然リアルに感じられなかったり、その意味も分からない。それを割り振って個人レベルまでブレイクダウンしたところで何も面白くない。あえて言えば営業職であれば売上を個人の為した記録として自分事にしてスポーツのように楽しんでいる人もいると思うんですけど、それも実は本質的じゃない。
お金は仕事としてやっていることそのものではなくて、その対価でしかない。対価のために頑張るのではなくて、やっていることそのものに夢中になって取り組めないとそこにやりがいは生まれない。スポーツはやっていることそのものに明確な目標がありますね。
ヒロさん
加えると、成果を出しているコーチというのは、そこの監督やコーチが選手それぞれに明確な目標を持たせることが上手なのだと思います。スポーツでの目標というのはもともとシンプルでわかりやすいけれども、それを常に忘れさせないように、繰り返し実感させることが必要なのではないでしょうか。