第44回『タイパ時代における「決めない会議」のすすめ』
2024年11月13日
現代のビジネスでは、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視して物事を進めることが求められています。会議も例外ではなく、だらだらと続く無駄な時間をなくし、30分以内で終わらせる、オンライン化するなど、より短時間で高い成果を上げる方法が模索されています。確かに、「タイパ重視の会議」は効率的な働き方に合った素晴らしいアイデアです。しかし、効率を追求するあまり、私たちはある大切な「何か」を失っているのかもしれません。
タイパを最優先にした会議では、課題解決に集中します。会議の開始時にはアジェンダが明確に示され、終了時には具体的なアクションが決まっていることが理想とされています。しかし、こうした会議スタイルでは、「共有」と呼ばれる、実は組織にとって非常に大切な要素が省かれてしまうことがあります。
失われる「共有」の価値
「共有」とは、業務に直接関係する話題だけでなく、時には周辺情報や雑談を含むものです。例えば、ある商談に関する相談中に「そういえばA社についてこんな話を聞いたけど…」というような周辺の話が出ることがあります。このような一見「脱線」した話題が、実は重要な情報源になったり、新たなアイデアのきっかけになったりするのです。他のメンバーがその話に乗り、そこから発想が広がり、新しい展開が生まれることも少なくありません。
このような「共有」は、昔の喫煙室で交わされるようなリラックスした環境で生まれるものです。しかし、タイパ重視とオンライン化が進む今、こうした雑談や周辺情報の共有が生まれにくくなっています。
イノベーションの種を育む「雑談」
組織が本当に力を発揮するためには、効率だけでなく、イノベーションを生み出すための「余白」を持つことが重要です。Aさん、Bさん、Cさんといった個々のアイデアが組み合わさることで、思いもよらない新しい発想が生まれる――これこそがチームの力です。
しかし、タイパ重視の社会では、目的を持たない「共有」や「雑談」が省かれ、イノベーションを生み出す土壌が失われているように感じます。効率を追求するあまり、大切な「共有」の時間が失われてしまっているのです。
「決めない会議」を取り入れる
では、どうすればタイパ重視の流れの中で、イノベーションの種を育てることができるのでしょうか。その答えの一つが、「決めない会議」の時間をあえて設けることです。これは、何かを決めたり結論を出したりすることを目的としない会議です。
例えば、「今の会社の状態をどう思う?」というようなオープンなテーマで話す時間を設けることで、普段の報告会議ではなかなか出てこない深い話題や本音を引き出すことができます。「実は最近、顧客の反応が良くなくて…」といった普段は言い出しにくい悩みや気づきが自然と共有されるのです。
こうした「雑談」に近い話から、意外なアイデアが生まれることも少なくありません。営業会議での報告では、ただの事実確認や課題追及に終わってしまう内容も、「決めない会議」では自由な発想の土壌となります。
タイパ時代における「決めない会議」の必要性
タイパが求められる現代だからこそ、あえて「決めない会議」を取り入れることで、柔軟な発想とイノベーションの芽が育まれる環境を意識的に作っていく必要があります。結論を急がず、問い詰められることもなく、ただ思いや気づきを自由に話すことができる時間を設けることで、「決めない会議」が効率を超えた成果を生むための大切な時間になるのです。
タイパを重視した会議と、共有や雑談を大切にする時間――この二つのバランスをとりながら、組織全体でより豊かなチームの力を引き出す場を作っていきましょう。