第84回『個人仕事とチーム仕事の違いは何ですか?』
2010年10月14日
研修で個人とチームの違いを考えてもらう際に、同じ課題に個人で挑戦し、またチームで挑戦して比較してみるということを行います。この時にその違いについて色々な視点や意見が出てきますが、個人で課題に取り組むのもチームで課題に取り組むのも、その解決の仕方の本質は何も変わりません。しかしチームで取り組むことによって色々な要素が変化するため、良い効果も悪い効果も現れます。それを理解し、うまく使いこなすことでチーム力で仕事の成果を上げていくことができるでしょう。
個人での課題解決とチームでの課題解決を比較する際によく使うのが「フェルミ推定」です。誰も正解を知識として知らないような課題を持てる知識と知恵を総動員して推定で答えを導きだします。例えば、日本全国に居るピアノの調律師の人数は?などというお題をまずは個人で考えてみて、それからチームで考えます。こういった誰も正解を知らない課題に挑戦する時には「推定」が必要です。推定とは、つまり「知っていることをもとにして知らない答えを決めること」です。
推定によって課題を解決する時に必要なのが「知識」と「知恵」と「仮定/決定」です。これが先に述べた個人で課題解決に取り組む時もチームで取り組む時も変わらない本質です。1人で課題に取り組む時に、まずどうしたらこの問題が解けるだろうか?を考えます。「ピアノの調律師の人数」の例ですと以下のようなことを考えます。
「ピアノの調律師の人数は日本にあるピアノの台数が分かれば見当が付きそうだ」
「何人に1人くらいピアノを持っているのかな?地域によって分布差はあるのかな?」
「個人で持っているだけじゃなくて施設に置いてあったりするものも結構あるんじゃないかな?」
「自分のまわりでピアノを習っていた人の割合は大体10人に1人くらいだったかも?」
「そもそも調律ってどれくらいの頻度でやるんだろう?」
この場合の知識とはたとえば「自分のまわりでピアノを習っていた人の割合」など、自分が知っていることです。日本の人口や世帯数も知識です。
知恵とは、持てる知識をいかに組み合わせるかの方程式です。たとえば、「ピアノの台数と調律の頻度とそれにかかる時間が分かれば答えが分かる」というようなものです。
そして「仮定/決定」とは、どんな方程式(知恵)を採用して、そこにどんな数字(知識)を当てはめるのかを決める事です。たとえば、「日本にあるピアノの台数は分からないけれど、自分のまわりで大体10人に1人くらいはピアノを習っていたから、恐らく10世帯に1台くらいはピアノがあるとして、日本にあるピアノの台数を約5000万台とする」と決める事で次へ進む事ができます。
こういった「知識」「知恵」「決定」を組み合わせた作業を個人でやる場合には1人の頭の中で進むのでより短時間で進みます。チームでやる場合には頭の中にあるものを全員の前に出しながら合意しながら進めるのでより時間がかかります。
ただし、チームで取り組む時の利点は他人の脳を借りられるという点です。簡単に言うと、課題を解決するための方程式は分かるという「知恵」のある人が他人の頭の中にある「知識」を借りて計算することがチームでは行えるのです。これによって1人で出すときより素晴らしい成果が出るはずです。しかし、誰もが経験したことのある通り「1人でやった方がよかった」という事も起こり得るのです。そこで起こる問題の例として「決定」の機能の欠落があります。たとえば、複数のメンバーが問題の解決案を提示して来た時に、チームでどれをどのように採用するか決定できないケース。または決定したつもりが、実は本当は合意できていなかったという時に問題が起こります。
個人で課題解決に臨む時もチームで臨む時も同じように「知識」「知恵」「決定」を組み合わせて取り組んでいる事を理解すると、次のようなことが理解できます。
・チームで取り組んだ方が他のメンバーのリソースを活かせるため、より良い成果が出せる可能性がある。
・チームで取り組む場合にリソースが多すぎて余計に分からなくなるという事も起こりうる。
・チームで取り組む場合に個人で取り組む時と違い、「決定」が容易でない場合がある。
チームで課題解決に取り組む事は簡単ではありません。しかし、チームで取り組んだ方がより良い成果が出せる可能性が高まるので仕事は組織で行われています。
チームマネジメントにおいては、「知識」「知恵」「決定」の要素がどう動いているのかに気を配ることでチームの相乗効果を活かしていくひとつの重要な視点を得ることができます。