第55回『チームビルディングの学びが活かせないのはなぜか?』
2013年07月04日
体験と対話をベースとしたチームビルディングプログラムでは、その終わりに「職場に何を持ち帰って活かすのか?」といったテーマで成果を確認します。その中で「職場と非日常の場は違うので活かせない」といった視点からの話がされる場合があります。ある観点からはそれも正しく、職場とチームビルディングプログラムの体験ではそもそもその性質からして大きく違う部分があります。
今回はその違いを理解し、その上でどのように職場でのチームビルディングに活かしてゆくのかを考えてみましょう。
よくある例として、チームビルディングプログラムの中では明確でシンプルなゴールがあります。それへ向かって挑戦する中でぶつかり合い、協力し合い、困難を乗り越えて高いパフォーマンスを発揮し、強いチームの実感を得ます。しかしながら、「職場ではそんな共有できるゴールがないからチームになれない」という話になる場合があります。
確かに職場では個別にやるべきことをやっているだけで、共有するゴールが本当にない場合があります。さらに、個人の仕事としても明確なゴールがあるわけではなく、ただ継続的に仕事を続けているという場合もあります。このような場合にはプログラムの中と同じように「明確なゴールを共有しよう!」では職場で活かしにくいものになってしまうこともあります。
この問題はその組織の性質によるもので、その違いを踏まえて理解するとより活かしやすくなります。
多くの場合、会社などはチームの前にコミュニティです。コミュニティはチームとは違うものなのでその性質も異なります。コミュニティはその存続、維持、生き延びることが主な存在理由で、メンバー同士の関係性やメンテナンスに重きが置かれています。ゴールを達成したら終わりではないのです。いわゆる村社会のイメージです。助け合いながら生きてゆき、何かの目的を達成したら終わりというわけにはいきません。
会社もゴールを達成したら解散というわけには行かない場合がほとんどです。しかし、より明確なゴールを次々を打ち出しながらよりチーム的な動きをするコミュニティもあります。
チームは明確なゴールがあり、それが達成されたらその存在理由を失います。そしてチームはコミュニティに内在され、あらゆる場面でその力を発揮します。会社であれば色々なプロジェクト、部門ごとの営業目標を共有している状態、何とか会社を立て直そうという目標や、会社を上場させようといった目標もチームを生み出します。チームが力を発揮する場面でそのチームを含むコミュニティの状態はとても強い影響を与えます。つまり、そのコミュニティの文化がそのチームが暗黙的に共有する文化であり、その規範の中での行動をそのチームは取ることになります。
したがって、チームが力を発揮するためにもコミュニティの文化を育んでゆくことはとても大切なことなのです。
そして、反対にコミュニティを育んでゆくためにチームは重要な役割を果たします。つまりチームはそのメンバーのコミュニケーションを活性化させ、認識共有、相互理解などを深めます。さらに、強い達成感や失敗の口惜しさなどを共有することからメンバーの結束を強固なものにしてゆきます。新メンバーの発掘や個人個人の成長にもつながります。
コミュニティが本当に維持存続だけを考えてそれしかやっていなければ衰退して行ってしまいます。しかし、そのコミュニティの存在理由につながる明確な目標が共有され、チームが生まれると組織の細胞が活性化し、代謝が促され、活動し、進化してゆきます。このあたりがコミュニティにとってチームが重要な理由です。
もう一度「職場ではそんな共有できるゴールがないからチームになれない」という話に戻ると、本当にその状態がずっと継続してしまうとしたら問題です。コミュニティの代謝が滞り、いつかは衰退してしまいます。しかしながら、そんな組織の状態にあったとしてもチームビルディングプログラムでの経験はコミュニティの中でのチーム経験そのものです。ここで生まれた関係性やコミュニケーションの変化を組織の代謝を促し、細胞が動き出すきっかけとしてゆくことができます。
チームビルディングプログラムの中でのチームのような組織を職場でつくろうとしてもうまく当てはまらない時にも、チームで経験したことをコミュニティを育てる糧として活かして行きましょう。