第92回『心理的安全性を高めるにはリーダーの関わり方が鍵 』
2022年08月04日
今回は、心理的安全性を高めるうえで、リーダーがどのような影響を及ぼしていくのかについて解説します。心理的安全性は組織の習慣や組織文化から生まれてくるものです。チーム単位で見たとき、リーダーの影響を強く受けます。リーダーのあり方、関わり方が心理的安全性に大きく影響を及ぼすのです。
心理的安全性が必要とされる、チームで思ってたことやお互いに言いたいことを言い合い、学び合い成長していくような有機的組織では、リーダーとしてイメージされやすいスーパーヒーロー型のリーダーではうまくいかないことが明白です。どのような存在がリーダーとして優れているのかは、時代の流れとともに変わるものです。リーダー像の誤解をといていきましょう。
リーダーは強くあらねばならない
神話の時代から「リーダーは強くあるべき」だという考えが根深く残っています。しかし、リーダーは強くなければならないというのが一番の誤解です。リーダーはチームを成功に導くスーパーヒーローであるという誤解をまず捨て去りましょう。むしろ逆に、リーダーは弱さをメンバーに見せられることが必要です。
リーダーは未来を見せなければならない
組織の中でメンバーががリーダーに依存している状態だと、「このリーダーについていけばこんな未来が待っている」と思える、ビジョナリーなリーダー、つまりビジョンの見えている人にメンバーはついていきます。
リーダーは未来を見せてあげなくてはいけないと思ってしまいますが、VUCAの環境ではリーダーも未来が見えません。リーダーは、「自分にも未来はわからない」ということをオープンに言えることが必要です。
リーダーは情報をコントロールしなければならない
不安を与えないように情報を管理するのは、企業の中ではよくあることです。情報をどこまで社員に開示するのか、リーダーは社員に出す情報を管理します。情報をすべて出すとメンバーに誤解されてしまうかもしれないから出さない、不安を与えないように情報を管理する、というやり方はうまくいきません。悪い情報ほど早く共有することがとても大切です。
リーダーは自信満々でなければならない
リーダーはマッチョでカッコいいスーパーヒーローというイメージからか、自信に満ちていなければならないという誤解もあります。
リーダーは自信満々で未来も見えている。けれども自分(メンバー)には未来が見えないからリーダーに依存しよう・・・という形になっていってしまいます。これはVUCAの環境において求められる組織の形ではありません。 しかし、無理して自信があるよう見せかけることによって、大切な心理的安全性を損なうことになります。
リーダーが自信満々であるように見せるのは避けましょう。
これまでさまざまな組織づくりに関わる中で、中間管理職や小さなチームの多くのリーダーが、なんとか部下を導いてあげようと善意の気持ちで頑張っているけれど、間違った方向にリーダーが頑張ってしまっているのを目にしてきました。これは非常にもったいない。
また、新米リーダーは、強いリーダーになろうとして頑張りがちですが、方向が間違っているとむしろ逆効果になっています。
自分は強いリーダーに向いていないと思うような、頼りないように見えるくらいの人の方が、今の時代のリーダーには向いているかもしれません。
ここからは、今の時代に求められる、心理的安全性を高めるリーダーに必要なあり方、関わり方をご紹介しましょう。
弱さを見せる
心理的安全性の高いチームにするためにリーダーにとって一番大事なのは「弱さを見せる」ということです。心理的安全性を高めるリーダーにとって一番大切なのは弱さを見せること、助けてほしいと伝えることです。
完璧なヒーローではない、自分もミスをする、だから助けてほしいということを伝えるのです。
リーダーは弱さを見せてはいけない、涙を見せてはいけないと頑張っているリーダーが多いですが、逆に、弱さを見せることが心理的安全性を高めるためには必要なのです。
心理的安全性の高いチームでは全員が弱いところも見せ合い、弱いところを見せても誰も自分を傷つけないという安心が心理的安全な場には必要です。
リーダーが強いところばかり見せて弱いところを見せないということは、お互いに弱みも見せ合える状況をリーダーが率先して妨害してしまっているということです。まず最初に大事なのは、リーダーが弱さを見せることです。
チームで弱さを見せ合い、助け合い学び合うチームであることをリーダー自身が示していく。これが一番大事です。
オープンに真実を伝える
心理的安全性を高めるリーダーにとっては、オープンにより早く真実を伝えることが大切です。リーダーは、メンバーに不安を与えないように情報を管理したり、自分を強く見せるために失敗を隠したりしがちですが、これは逆効果です。
心理的安全性の高いチームでは、思ったことをオープンに言い合えます。特に、リーダー自身の失敗話は率先して、できるだけ早く共有することが大事です。もしリーダー自身が失敗したとしても、むしろ積極的にメンバーに共有しましょう。失敗をさらけ出すことによってリーダーに対する信頼感がぐっと増します。
この組織では変に格好つける必要はなく、お互いオープンに真実を伝え合うことが大事なんだという規範が広まっていきます。お金の流れは隠したい社長さんも結構いるようですが、 チームビルディングジャパンでは、会計状況も含めすべての情報をオープンにしています。会社のお金のことも全部見せていくことによって、自分のチームに割り当てられた予算でやるのではなく、メンバーが会社全体を見て仕事をすることができるようになります。
財務諸表を見せても興味のある人と無い人はいるものですが、情報は基本的にオープンにしておきましょう。興味のある人からは気づきがもらえますし、会計知識のない人が新たな視点をくれることもあります。重要なのは、会計に限らず、全ての情報はオープンに真実をより速く伝えるということです。
包み隠さず正直に、という当たり前のことです。これができているリーダーというのは心理的安全性の高いチームをつくることができます。
好奇心を持って聴く
好奇心を持って相手の話を聴くこともリーダーにとって大事な要素です。私自身、チームビルディング研修のプログラム中だけでなく、社内の組織づくりでも常に大切にしています。
好奇心を持って聴くというのは、ただ情報を入れるために聞くのではなく、相手を理解するために好奇心を持って聴くということです。この人は何を考えて、どのような背景があってこういうことを言っているんだろう、こういう行動をしているんだろう。なんだか機嫌が悪そうだけれど、その背景には何があるんだろう。これらを理解しにいくつもりで聴いています。
多くのリーダーは理解しにいくのではなく、自分の理解に当てはめて相手を判断しています。それによって関係性が壊れていっています。
例えば、
部下が、大事な会議に資料が間に合わないと平気な顔で言い出したとします。なんだこいつ、資料が遅れてるのに平気な顔をしやがって・・・とリーダーは怒ります。この時、リーダーは自分の常識に当てはめて考えています。
自分だったら絶対こんなことしない、徹夜してでも資料を仕上げるものだ、何でやらなかったんだ、どうした忘れてたんだ・・・と責めます。「なんで」という問いかけを使いながら、「聴く」のではなく責めてしまうのです。
これは好奇心を持って聴くということとは全く違います。
好奇心を持って聴くリーダーは、なんでこの人は大事な会議の日に資料を仕上げてこないのかを理解しにいきます。プレゼン資料を用意してしまうと作り物っぽくなって我々の思いが伝わらないと考えたからかもしれません。
もしくはすっかり忘れていただけかもしれません。肯定される理由だけでなく、たとえ非難されるような理由であったとしても、どうしてその人のなかで起こったのかを、リーダーは理解しにいきます。
自分のフレームに当てはめずに、相手のフレームだったらこういう風に考えてこういう判断だからこのような選択をし、行動したんだ、ということを自分は理解できていないんだという気持ちをもって相手に対する好奇心をもって聴きます。決して質問の形をとって攻撃してはいけません。
好奇心をもって聴いていると、相手は「このリーダーは自分のことを分かろうとしている」「大切にしてくれている」と感じられて信頼が生まれます。リーダーに対する信頼が生まれるとそれがチーム全体に広がっていきます。
チームの信頼をつくるのはまずリーダーから。もし、訳の分からないことをやっている部下がいたら、分からないことを自分から理解しにいくようにしましょう。
明確な規範を示す
リーダーが明確な規範を示すことも重要です。メンバーは、何がだめで、何がありなのか分からないことが不安です。上司の気分で怒られたり、ダメだしされたりしては、結局リーダーの気分次第なんだと感じてやる気がなくなります。明確な規範、目標、ルールが無いと、上司の顔色を窺う組織になってしまいます。
「これをやったらリーダーはどう思うかな」とメンバーが窺う必要がない状態をつくるためにも、リーダーは明確な規範を示しましょう。
明確な目的のために共に頑張っている仲間だと思えば、言いにくいことも言い合えます。
本来のチームの目的、仕事の目的よりも、上司の機嫌や顔色を窺って仕事をする。これは多くの組織でよく起こっています。「どうしたら上司に提案が通るかな」「どういう風に見せたら上司が納得するかな」「そのためにはどのデータが必要かな」・・・
本来の目的を忘れ、上司に話を通すための仕事になっていることはありませんか。みなさん知らず知らずのうちに結構やっていると思います。
「みなさん当たり前にやっていて、僕は見ていて怖くなるんですけど、目的のための仕事ではなくて、上司のための仕事になっていますよね」
と指摘すると、本人はハッとされます。こういうことが多々あります。
リーダーは、メンバーが守らなくてはならないガイドラインを明確に示しましょう。ガイドラインを守っている限りは、メンバーは自分で判断して動くことを推奨します。リーダーは全体をウォッチし、気づいたことは随時フィードバックします。上司の気分で判断せず、明確な基準、規範で組織を導いていくことが大事です。
ここまで、リーダー像によくある誤解と、心理的安全性の高いチームをつくるために必要なリーダーのあり方、関わり方をお伝えしました。
我々チームビルディングジャパンはこれまでいろんな組織づくりに関わってくる中で今回ご紹介したようなリーダーを多く見てきました。
もしも一つでも思い当たることがあったら、自分がリーダーとしてできることを意識して日常の習慣を変えてみてください。リーダーの習慣が変わることで組織が変わっていきます。
今回ご紹介したことを意識して継続しさえすればチームに変化が起こります。
まずはここから始めてみてください。