第85回『正解のない課題の最適解を見つける方法』
2022年04月28日
「話し合い方入門」としてシリーズでお届けしてきましたが、今回が最終回となります。
みなさんはそもそもなぜ会議や話し合いをするのだと思いますか。
正解があることならば誰かに聞けば済みますし、経験者に任せたり教えてもらったりすることで解決できます。
話し合いが必要になるのは、正解のない課題を扱わなくてはならないときです。
誰も正解を知らない課題の答えを見つけなくてはならない時や、何が一番適しているかやってみないと分からないときに、必要なのが「最適解」です。
「最適解」を導くときに話し合いが必要になるのです。
「最適解」とはなんでしょうか? 「最適解」とは、最も適した答えのことです。
さまざまな選択肢や、現状考えられることの中から考えられるベストな回答です。
正解があることは調べたり聞いたりすればわかります。
誰も答えを知らないときにも最適解を導いていけるのが話し合いのもつパワーなのです。
最適解を導いていくための、3つの考え方をご紹介します。
・集団的知性
・フェルミ推定
・ブレインストーミング
●集団的知性
集団で集まって取り組むときに、複数の人が集まれば1+1=2以上になるのか、総和以上になるのかを調べた研究があります。
結果としては、1+1は2以上になるという結果が出ました。
「集団的知性」とは、いろんな種類のタスクを遂行する集団としての総合的な能力のことです。
人間個人ならIQという知能の高さを測る指標があります。IQは仕事やタスクに対してどれだけ個人のパフォーマンスが高いかを示しています。「集団的知性」はさまざまなタスクを集団として遂行する総合的な能力のことです。
有名なのはアニータ・ウーリーによる研究です。たくさんの論文があがっているので興味のある人は読んでみてください。
集団的知性の高いチームに共通する3つの要素があります。
・社会的感受性の高さ
・発言機会の平等性
・女性比率の高さ
「社会的感受性の高さ」とは、相手がどう感じているかを言葉抜きに察知する能力の高さのことです。
「発言機会の平等性」とは、偉い人や声の大きい人だけが発言するのでなく、全員に発言機会が平等にあるということです。
「女性比率の高さ」とは、メンバーの中に女性が一定数以上いるということです。
(この研究の論文の中では、女性比率が高いと社会的感受性も高くなるので、女性比率の高さは社会的感受性に内包される要因かもしれないと言われています)
「集団的知性が高ければ、チームの力を活かしてより最適解を導きやすくなる」という研究結果を活かして、我々ができることがあります。
1つめは、「他のメンバーが感じていること、考えていることに意識を向ける」ことです。
社会的感受性は元々高い人と低い人というのはいますが、他のメンバーが感じていることを受け取ることが大事なんだという意識をメンバー全員が持つことによって、全体の集団としての社会的感受性の平均値が上がりますし、仕事では感受性を使ってはいけないと思っている人も、遠慮なく発揮することができるようになります。それがチームのパフォーマンスが上がることにつなががります。
2つめは、「メンバー全員が発言のバランスに気をつける」ということです。
発言機会の平等性というのは、わかりやすく見えやすいものなので取り入れやすいでしょう。
例えば、話している中であまり発言していない人に意見を聞いてみたり、全員一人ずつ紙に書いてから発言するようにしてみるなどの方法があります。発言が偏っていると感じたら、それを偏らないように修正するための手を打ちましょう。
●フェルミ推定
「フェルミ推定」とは、さまざまな視点やデータを掛け合わせて概数を推定するということです。知らない答え、未知の問題の最適解を計算で導き出します。
フェルミ推定は、いろんな人のいろんな視点を掛け合わせる練習として大変有効です。チームでぜひやってみてください。
例えば、「日本に公衆電話は何台ある?」という問題に対し、概数を推定する場合、
ある人が「公衆電話ってどこにあるかな?」と投げ掛けることによって、「駅にはあるよね?」「病院に絶対あるでしょ」「公共施設にはあるかもね」など、いろんな人が思い付いたことをどんどん言う練習になるのです。
一人の頭の中では推定ができないことも、いろんな人の持っている知恵や、他の人の意見を聞いて思い付いたことを投げ合わせることによって推定の質が高まります。
これはまさに最適解を導くことです。
チームで遊び的にやってみると正解のない課題にチームで取り組む練習になります。ぜひ試してみてください。
●ブレインストーミング
最後に、「ブレインストーミング」をご紹介しましょう。
世の中ではブレインストーミングはアイデア出しの方法ぐらいにしか思われていないことが多いですが、チームの力を引き出していくためにブレインストーミングは非常に有効です。
複数の人が集まって最適解を導くためには、ブレインストーミングを4つのルールにしっかり則ってやってみることがポイントです。
ブレインストーミングの4つのルールは以下の通りです。
1)制約に囚われない自由な発想
2)とにかく量を出す
3)便乗する、交ぜ合わせる
4)“それはダメ”だと切り捨てない
これらは、生物の進化の中で起こることを模した思考法です。
最適解を出すには有機的組織が適していると言われますが、ブレインストーミングはまさに組織が有機的に思考するために有効な方法なのです。
「制約に囚われない自由な発想」
生物の進化の中でもいろんな個体が出てくる多様性が非常に重要です。なぜなら、次の世代を生き残るためにどれが有効な個体か分からないからです。
ブレインストーミングでも、制約に囚われずに自由に発想することにより、いろんな意見が出てきます。
「とにかく量を出す」
少ないと多様なモノが出てきません。意見の量が出ることにより、掛け合わせるバリエーションが増えます。
「便乗して交ぜ合わせる」
会議では「これはAさんの意見」「こちらはBさんの意見」と切り分けられてしまうことが多くあります。しかし、これは良くありません。場に出た意見は個人のものではなく、みんなのものにする必要があります。そうでないと、交ざり合いが起こりません。
交ざり合いが起こらない会議では、
「Aさん、Bさん、Cさんの意見のどれがいいかな?」という話し合いになってしまいます。
そうではなく、「なるほど、Aさんは〇〇という意見、Bさんは△△という意見、Cさんは□□ という意見。それを混ぜ合わせたらXXという発想になるよね」という話し合いにしていきます。
生物の進化でいうところの交配して次の世代が生まれていくことと同じです。
親となるアイデアとは全く異なる新しいアイデアが生まれてくるのです。
「“それはダメ”と切り捨てない」
切り捨てないとアイデアがぐちゃぐちゃになってしまうのでは・・・という思いから「いや、それは無いでしょ」とついつい言いがちですが、意見を切り捨てる必要はありません。
とにかく意見の量が出て進化すると、不要なモノは勝手に消えていき、かつ、優位なモノがどんどん進化をしていきます。
切り捨てることを意識してしまうと、発言を躊躇してしまい、自由な意見が出にくくなります。捨てることは止めましょう。捨てないでおくと、実は次の世代で進化につながることもあります。
生き物が水中から地上に出るときに、「地上ではエラ呼吸できないじゃん」と切り捨てていたら、陸上生物は生まれなかったかも知れません。「肺で呼吸すればよくない?」と考えたからこそ、今があるのです。
ブレインストーミングの4つの手法に則って話し合うことによって、生き物が進化するように話し合いに進化が起こります。最初は誰の頭にも無かったアイデアが生まれ、最適解に近づいていくのです。
ブレインストーミングというと、「とにかくたくさんのアイデアを出そう」「その中に1つくらい良いものがあるよね」ぐらいに思われていることも多いのですが、そうではありません。
いろんなアイデアを進化させることによって、誰の頭の中に無かった新しいアイデアを導き出し、それが最適解につながっていく。これが有効なブレインストーミングの活用のしかたです。
以上、今回は最適解を導き出すための3つの考え方をご紹介しました。
・集団的知性
・フェルミ推定
・ブレインストーミング
これらは答えのない課題に対して、最適解を導いていくときに大変有効な考え方です。
最初は慣れないかもしれませんが、少しずつ取り入れてみることによって最適解を導いていく話し合い方ができるようになってくるはずです。ぜひ試してみてください。