第60回『D&I マーストンモデル』
2021年05月13日
「ダイバーシティ&インクルージョン」がチームにどう影響するのかについてシリーズでお伝えしています。
多様性は、ジェンダーや人種、障害など分かりやすいところだけにあるものではありません。
実は一見同じように見える人も違う見方をしています。この何気ない日常の中にある違いを受け入れることが重要です。
「人によって同じものを見ても、その意味をどう捉えるかは人によって違う」。
そんなのは当たり前だろうと思う人が多いかと思いますが、実際にはなかなか難しいものです。
「同じものを見ても捉え方が違う」ということを受け入れるのは、そこに多様性が存在するということを受け入れることです。ダイバーシティ&インクルージョンを活かしていく上での第一歩となります。
今回は、「同じものを見ても捉え方が違う」ということを理解するために役立つ「マーストン・モデル」をご紹介しましょう。
マーストン・モデルは、ウィリアム・モールトン・マーストン(ウソ発見器の原型を発明した心理学者)によって考案されました。
・自分のまわりの物事を好ましく捉えるか/好ましくないと捉えるか
・自分は自分のまわりの物事に影響を与えて変えることができると思っているのか/変えられないと思っているのか
この2つを縦軸・横軸にとり、四象限で捉えます。
マーストン・モデルでは、四象限のどこに位置するのかによって、その人の行動に表れる特性が大きく異なるということを知ることができます。
一つ目の軸は、「環境を好ましいものとして見るのか/好ましくないものとして見るのか」という軸です。
ここでいう「環境」とは、自分の外側のものすべてを指します。社会環境、自然環境だけでなく、自分のまわりにいる人なども環境に含まれます。
環境を好ましいと思っている方が良いとか、好ましいと思っていないのは悪いとか、良い悪いはありません。
例えば、 環境が好ましいと思う人は受容的で、物事を受け入れる傾向があります。
環境が好ましくないと思う人は懐疑的で、いかに最適な解決策を見つけるかを考える傾向があります。
環境を好ましいと思う人は、人志向の傾向があり、「○○さんが言っていたたから」「○○さんが一緒に行くから」という選択をしがちです。
環境が好ましくないと思う人は、論理的思考になります。感覚ではなく、論理的に物事を理解し、正しい選択をしようとします。
もう一つの軸は、「環境をコントロールできると思うのか/コントロールできないと思うのか」という軸です。こちらについても、コントロールできると思う方が良いとか、できないと思う方が悪いなどの良い悪いはありません。
環境をコントロールできると思う人は、自分が環境に影響を与えることができると思っており、積極的に自己主張をする傾向があります。
環境はコントロールできないと思う人たちは、穏やかで、静かだったり落ち着いた印象を持っています。
環境をコントロールできると思う人は、ダイナミックで大胆です。
環境はコントロールできないと思う人たちは、丁寧だったり注意深い傾向があります。
環境をコントロールできると思う人は、勢いがよく、活動的で、ペースが速く、よくしゃべります。人の前に立ち、周りに影響を与えることが好きです。
環境はコントロールできないと思う人たちは、思慮深く、落ち着いています。人の前に立つよりも、裏方や人のサポートをするのを好みます。
環境が好ましいとみるか、好ましくないとみるか、環境をコントロールできるとみるか、コントロールできないとみるか。この2つの軸を掛け合わせることで、以下の4つの傾向に分類できます。
・環境が好ましくない/環境をコントロールできると捉える
・環境が好ましい/環境はコントロールできないと捉える
・環境が好ましくない/環境はコントロールできないと捉える
・環境が好ましい/環境をコントロールできると捉える
特にこの四象限の対極にあるタイプの人の行動は理解しづらく、私たちに「同じものを見てもその意味が違う」ということを教えてくれます。
例を挙げて説明しましょう。
近所に新しい飲食店ができたとします。その店の前に行列ができているのを見たとき、あなたはどのような反応をするでしょうか。
「こんなにお客さんを並ばせるなんてオペレーションの悪い仕事をしてるな」「自分が経営者だったらもっと効率よくお客さんを回転させて、もっと利益を出せるお店にできるのに」。そう考えた人は、環境が好ましくないと思っていて、かつ、自分は環境をコントロールできるという見方をしています。行列ができているということ良くないことであり、自分ならもっと良くできると捉えているからです。
では、別の特性の人たちは同じ状況をどう捉えるでしょうか。
環境は好ましいと思っていて、かつ、環境はコントロールできないと捉える人たちは、「人がいっぱい並んでいるということは人気店に違いない」「今度○○さんを誘って、早めに来て列に並ぼう」と捉えたりします。人志向が強く、人の役に立つこと、人と共通体験をすることなどに喜びを感じる傾向があり、「人気店なんだったら○○さんと一緒に行きたい」と考えます。
環境が好ましくないと思っていて、かつ、環境はコントロールできないと捉えていると、「この店は並んでいるから、ランチタイムに来るのはタイムロスになる」「この店に来るのはやめよう」「来るなら時間をずらして来よう」と考えます。
環境は好ましいと思っていて、かつ、環境をコントロールできると捉えると、インフルエンサーとして他の人に影響を与えるような傾向が現れます。行列を見て「きっと人気店に違いない」と捉え、真っ先に行列に並んで人気店で食事したことを周りに発信しようとするなどの行動が見られます。
このように、同じことを見てもその人の行動特性によって全く捉え方が違います。特に、自分とは真逆に位置するタイプの人たちの思考を知ると、「そんなことを考えるの?!」と驚くことでしょう。
自分にとっては当たり前だと思っていることが、相手にとっては当たり前ではないかもしれないということを理解し、違いを知って受け入れることは、ダイバーシティ&インクルージョンを活かす第一歩です。
まずは、自分の当たり前とは全く違う 当たり前があるということ、自分の当たり前が相手の当たり前ではないということを理解しましょう。そして、人としての特性の違いとして尊重し受け入れ、違いを生かし合いましょう。
マーストンモデルをもとにした特性診断ツール「DiSC」は、人によって捉え方が違うことを理解し、メンバー一人ひとりを活かすために非常に有効なツールです。チームビルディングジャパンのプログラムでも使っています。
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DiSCチームビルディング
https://www.teambuildingjapan.com/program/training/purpose/disc/
Marston, William Moulton (1928). EMOTIONS of NORMAL PEOPLE