第58回『D&I違いから新たな価値を生み出す』
2021年04月15日
「ダイバーシティ&インクルージョン」がチームにどう影響するのかについてシリーズでお伝えします。
今回はまず、ダイバーシティが原因で生まれる「対立とイノベーション」についてお話しします。
ダイバーシティ&インクルージョンをどう扱うか
今、様々な企業がダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。
以前から「ダイバーシティが大事」だとは言われていましたが、「インクルージョンが大事」だと言われるようになったのは、ここ数年のことです。
「ダイバーシティ&インクルージョン」といっても、組織や集団のステージによってダイバーシティ&インクルージョンをどう扱うべきかは異なります。
まず、ダイバーシティ&インクルージョンで最低限クリアしておかなくてはならないのは
「どんな人も、どんな事情があろうとも人権は平等である」という点です。
全ての人が平等に持つ権利が損なわれるべきでないという合理的配慮は最低限必要なラインです。とはいえ、最低限の合理的配慮がなされていない企業も多いのが実情であり、平等という観点でダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいる最中の組織も多いことでしょう。
例えば、女性活躍推進や障害者雇用の取り組みはダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの一つです。
雇用しなくてはならないから取り組んでいるという企業もあれば、社会的責任としてやっている企業もあります。
また、日本ではほぼ無視されていますが、「人種間ダイバーシティ」もあります。
ダイバーシティ&インクルージョンの研究や活動はアメリカが主流です。
アメリカでは、人種間のダイバーシティについては強く配慮して扱われていますが、
企業においてはどうしても白人男性が有利になるのが現実です。
違いからイノベーションを起こす
このような最低限の合理的配慮は当然のこととしてなされる前提で、その先に企業が目指すダイバーシティ&インクルージョンとはなんでしょうか。
それは、「違いや多様な視点から新たな価値を生み出そう」「イノベーションを起こそう」とすることです。
そのためにはダイバーシティ&インクルージョンの「&インクルージョン」がとても大事なポイントとなります。
ただ多様な人が集まっているだけでは、そこからは何も生まれません。対立や衝突、あるいは分断が生まれるばかりです。
受け入れ合い、尊重し合う「インクルージョン」があって初めてチームの力が発揮され、違いから価値が生まれます。インクルージョンが無ければ、単に異なる人が集まっているだけの集団になってしまうのです。
例えば、「AさんはAさんの考えがあっていいよね、BさんはBさんの考えがあっていいよね」「男性も女性も、障害者であろうとなかろうと平等に扱われるべきだよね」。これだけではただダイバーシティがあるだけです。簡単ではありませんが、違いを尊重し合い、活かし合うことが必要になります。
インクルージョンを起こす方法などについてはまた今後のコラムでご紹介しますが、ここでは「みんな違ってOK」だけではチームの力は生まれず、「違ってもお互いを受け入れ合う」ということがあって始めてチームの力が生まれるということを掴んでおいてください。
受け入れるといっても、自分の見方を消して相手の見方に合わせるということではありません。「自分とは違うけれど相手はこういう見方をしている」ということを受け入れるという意味です。相手の見方を自分の見方と同様に尊重して扱います。
価値を生み出すための違いが本質ではない
企業はどうしても成果や結果に目が向きやすいため、「違いがある方が価値が生み出していける」というと、価値を出すために違いが大事なのだという捉え方をしがちですが、本質はそこではありません。
本来、価値が生まれるから違いが尊重されるのではなく、人は誰しもその人自身として価値があります。違いがある無いにかかわらず、あるがままのその人自身が大切で、尊重されるべきもののはずです。
チームの生み出す価値ばかりに目が向いてしまうと、人を人として大切にしなくなってしまい、ダイバーシティはあっても違いから価値を生まないということにもなってしまいます。
これでは「価値を生み出せないと、違いには意味が無いのか?」という誤解も生まれかねません。
「人を人として尊重し、違いがあってもお互いに自分も相手も大切にしよう」という当たり前のことができていることが実は大事なのです。
「人を人として大切にしよう」という小学校の標語のような当たり前のことがきちんとできていると、違いから価値を生み出すことにもできますし、企業としても良い成果を生み出すことにもつながります。
「違い」に対しては、つい怖れてしまいがちです。自分が違ってしまうことも怖いし、異質なものが入ってくることも怖い。しかし、それを怖れるのではなく、尊重しあい、受け入れ合っていくことによって、結果として、チームで素晴らしい成果を生み出すことができるのです。
次回からは、違いに対する怖れを払拭するために必要な考え方、具体的な行動をご紹介していきます。