第38回『未知の課題に取り組むアプローチ(3) 未知の課題を解決していくチームの特徴』
2020年07月09日
未知の課題を解決するときに、どのようなチームがうまくいくのかについてはたくさんの研究がされています。
その一つ、集団的知性と呼ばれる、チームで未知の課題を解決する能力について調査したアニタ・ウーリーの研究の一つから結果を出すチームに共通する3つの特長をご紹介します。
1) 発言機会の平等性
2) 社会的感受性の高さ
3) 女性比率の高さ
1) 発言機会の平等性
そのチームの誰もが平等に発言できるということです。
部下が説明してして、上司がフィードバックして・・・という「線のコミュニケーション」の場合、上司の発言量が圧倒的に多くなります。
誰もがフラットにたくさんの人が平等に話すということが、「発言機会の平等性」です。線ではなく、縦横無尽に面で話す状態です。
上司の発言量だけが多い組織は、残念ながら少なくありません。
その場合はまず、上司が常に正解を知っていて、正しいフィードバックができるわけではないことを理解することが必要です。
組織構造をフラット型にできない組織でも、例えば、順番に話したり、「あの人は話してないな」と気遣って声を掛けたりするなど、発言機会を平等にするために「型」でできることはあります。
発言機会の平等性を見直すことが良い組織づくりに有効です。
2) 社会的感受性の高さ
「社会的感受性」とは、自分以外の周りのメンバーが「今何を考えているのか」「今何を感じているのか」を言葉で直接伝えなくても感じ取る力のことです。
例えば、表情から相手の感情を読み取るなど、人の気持ちを敏感に感じ取ることができる人は、社会的感受性が高いといえます。
社会的感受性の高い人たちが多いチームは、未知の課題を解決する能力が高いという結果が出ています。
3) 女性比率の高さ
様々なデータをとって調べたところ、チーム内の女性比率の高さにも有意性が確認されました。
統計的には、女性の方が社会的感受性の高い人が多いため、女性比率が高いことによって社会的感受性の高い人たちの割合がチーム内に多くなり、そのため結果が出ているとも言われています。
集団的知性の高い組織の特徴である「社会的感受性が高い」ことと「発言機会の平等性」は密接に関係しています。
・みんなが思うことを自由に発信し合うことができる
・経験のある人も無い人も、上も下も関係なく、その人が持っているものを出す
・専門的な知識を持っている人もいれば、くだらないことを言う人もいる
これは、遺伝的アルゴリズムでもお伝えした多様な遺伝子があるという状態です。
ピラミッド型のコミュニケーションになってしまうと、上の人がどう思うかを踏まえた発言しか出なくなり、多様な遺伝子が生まれません。いろんな意見を拒絶してしまうと交ざり合いません。
フラットで発言機会の平等性があり、社会的感受性が高い状況では、多様な意見が受け入れてもらえます。
「それ、おもしろいですね」「それはどういう観点で思い付いたんですか」という質問が出ることで、交ざり合いが起こりやすくなるのです。
社会的感受性の高さは、発言機会の平等性をつくります。
社会的感受性の高い人は、「この人大丈夫かな」「この人はどう感じてるかな」ということが気になるので、発言機会が少ない人に対する関わりかけを起こします。それによって発言機会の平等性が保たれるのです。
このような関わりかけができているチームというのは実際に、未知の課題に対して成果を出しています。
コロナ対策がうまくいっている国は、女性リーダーが活躍しているというニュースもありました。うまく社会的感受性の高さを活かした結果、未知の課題に対応できたとも想像できます。
集団的知性の考え方は、我々が直面している未知の課題を乗り越えていくために有効な視点です。
発言の機会を平等にし、お互いの気持ちを感じ取り合い、大切にする。日々のコミュニケーションを意識して変えることが未知の課題を解決するチームの文化を育てます。
今まさに世界中が直面している危機。これを乗り越えるのはどこかにいる一人のスーパーヒーローではありません。ヒーローに依存して待っていても世界は動きません。
私たち一人ひとりが日常の地道なコミュニケーションの中で生み出すチームの力こそがこの危機を越えて、新しい社会を生み出していくことができます。