第19回『多様性と受け入れ合い(理論編)』
2019年10月17日
組織づくりと人づくりに必要な9つの要素
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【 組織を一つにするもの 】
●自分たちらしさ
●目標、ビジョン、ゴール
【 ベースとなる組織文化 】
●心理的安全
●多様性と受け入れ合い
●主体性
【 組織として学び、進化し続けるための行動 】
●混ざり合いを起こす
●失敗や異色な発想を受け入れる
●行動量やコミュニケーション量を増やす
●リフレクションを行う
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「多様性と受け入れ合い(ダイバーシティ&インクルージョン)」という言葉は、職場や社会の中では、女性活躍推進や障碍者雇用などで使われることが多いですよね。
「マイノリティを排除しない」というのは、狭義の意味では間違っていません。
しかし、私たちは「多様性と受け入れ合い」を、
「日常の中にある多様性を活かしていく」という意味で使っています。
「マイノリティを受け入れてあげよう」という上から目線ではなく「多様であることから価値を生み出していこう」という考え方です。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は「多様性と受け入れ合い」の理論編です。
「遺伝的アルゴリズム」や「発想法(ブレインストーミング)」から、多様性と受け入れ合いについて考えてみましょう。
■遺伝的アルゴリズム
「遺伝的アルゴリズム」をご存じですか。
遺伝と進化のメカニズムを応用して、コンピューターで最適解を導き出すアルゴリズムのことです。
これがものすごい。生き物の進化を機械で真似してみようというのです。
具体的にはどうするのかというと、
まず、「どのルートを通ると一番効率的にすべてのポイントを回れるか?」などの複雑な問題の答えを、ランダムに導き出します。
そして、適当に出した答えを掛け合わせて、次の世代を生み出して進化させるのです。その過程では、生物の突然変異のようにわざと間違えて組み替える要素も折り込みます。
すると、どうなると思いますか。
通常なら”正解”を導き出すのにものすごく長い時間が掛かってしまう難問でも、短時間で”最適解”にたどり着くことができるのです(最適解とは、それよりももっと良い解がある可能性はあるが、結果を出すために十分質の高い解のこと)。
ここで、重要なポイントがあります。
「同じ遺伝子ばかりだと進化しない」ということです。
全く同じ遺伝子を掛け合わせても、次の世代も全く同じ。これでは、次の時代に新たな環境の変化が起こったときに生き延びていくことができません。
組織も生物と同じです。
社会環境の変化が大きく、正解のない答えを導き出していくことが求められる環境下では、生物が進化していくように組織も進化していく必要があります。
組織内に多様性があることで、それが掛け合わさり、その時の環境にとって最適な答えを導き出すことができます。
だからこそ今、組織に「多様性」が求められているわけです。
ただし、単に多様でさえあればいいというわけではありません。
違いを受け入れ合い、かつ、活かし合うことが組織のベースの文化として在ることが必要です。
ピラミッド型組織(機械的組織/mechanistic system)では、組織を構成する人はすべて同質であった方がいいので、多様性は排除され、システマティックに物事が判断されます。
一方、フラット型組織(有機的組織/organic system)は、オーガニックシステムというその名の示す通り、生物の形に近い組織形態です。
様々なメンバーがプロジェクトごとにつながりを変えながら、多様さを掛け合わせて、最適解を導いていきます。こうして結果を出していくのがフラット型組織(有機的組織)です。
遺伝的アルゴリズムの考え方からも、今の時代を生き抜くためにはメンバーが多様であることの重要さをお分かりいただけるでしょう。
■発想法(ブレインストーミング)
発想法という分野でも、異なるものを掛け合わせるということがよく使われています。
わかりやすくて有名な発想法の1つである「ブレインストーミング」の4つのルールをご紹介しましょう。
ルール①:質より量。いいアイデアを自分の頭の中で練って出そうとするのではなく、とにかくたくさん量を出すこと。
ルール②:雑だとか、現実的ではないと言われるような飛躍したアイデアをどんどん出すのを歓迎すること。
ルール③:その場で善し悪しの判断をしないこと。出てきた意見を「これはダメだよね」と否定しないこと。否定してはアイデアが出なくなってしまいます。
ルール④:便乗・進化・発展させるということ。誰かから出たアイデアに乗っかって次につなげ、そこから発展させ、新たな発想を生み出していく。一番大切なことです。
ブレインストーミングでは、以上の4つのことが大事であるといわれています。
「突拍子もないアイデアや、現実的ではないアイデアをどんどん出していこう」
「ちょっと変なアイデアだとしても否定しないで、一旦そこに置いておこう」「便乗し進化させていこう」
・・・そう思っても、現実的ではない飛躍した意見は、否定されたり、能力が低いと思われたりすることへの恐れから、実際にはなかなか表に出しにくいものです。
しかし、これは生物の進化で必要な突然変異と同じです。
その瞬間は変なものに見えても、次の世代の進化に必要なものかもしれませんし、
チームの中の”ちょっと変わった人”がいないと、環境の変化に適応できないチームになってしまうかもしれません。
異なるものをどんどん掛け合わせて進化させていこうとするこれらのルールは、アイデア出しの中で、有機的組織的な生物の進化的な発想の進化を起こそうとする仕組みになっています。
このような発想法の中にも、多様性と受け入れ合いの要素が見られるということがお分かりいただけると思います。
■さいごに
組織の中に多様性と受け入れ合いの文化があることで、一人ひとりが自分らしくいられるだけでなく、仕事の結果も大きく変わります。
大切なのは、「多様性と受け入れ合いは、組織が環境の変化に適応して進化していくうえで欠かせないものである」ということ。
「可哀想だから受け入れてあげよう」という態度では、いくらメンバーが多様だとしても組織はうまくいきません。
一人ひとりが違うということには意味があります。特に弱者と決めつけている相手を見下すのをやめ、違いとして受け入れ合う気持ちを一人ひとりが持つことができれば、それがきっかけとなり有機的な組織文化を生み、組織が進化してゆくことでしょう。