第17回『心理的安全(理論編)』
2019年09月19日
組織づくりと人づくりに必要な9つの要素
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【 組織を一つにするもの 】
●自分たちらしさ
●目標、ビジョン、ゴール
【 ベースとなる組織文化 】
●心理的安全
●多様性と受け入れ合い
●主体性
【 組織として学び、進化し続けるための行動 】
●混ざり合いを起こす
●失敗や異色な発想を受け入れる
●行動量やコミュニケーション量を増やす
●リフレクションを行う
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組織のなかにどのような文化があるのか、ということは組織づくりをする上で重要なポイントです。なぜなら、組織の行動や日常の活動のベースになるのが組織文化だからです。
機能しているチームには、「心理的安全」「多様性と受け入れ合い」「主体性」の組織文化があります。
これらベースとなる組織文化のうち、今回は「心理的安全」についての研究を紹介します。
■プロジェクトアリストテレスの研究
「心理的安全性」は、組織開発界隈ではここ数年、超が付くほどのバズワードでしたので、耳にしたことのある方も多いことでしょう。
心理的安全の重要性は以前から言われてきたことでしたが、数年前にグーグルが公表した「プロジェクトアリストテレス」のレポートをきっかけに、一気に広まりました。
どのようなレポートか、一言でいうと、
グーグルが自社の中で、高いパフォーマンスを挙げているチームを調べた結果、「心理的安全性(サイコロジカルセーフティ)が一番大事である」ということがわかった、というものです。
プロジェクトアリストテレスでは、最初は
リーダーの傾向や、メンバーの仲の良さ、メンバー間でどれくらい会っているのか等がポイントになるのではないか・・・という仮説を立てて、チームを調査していました。
ところが、どんなに調べ、どのようなデータをとってみても仮説と合わなかった。
試行錯誤しながら調査を続けるうちに、わかったことがありました。
それは、「パフォーマンスの高いチームは、どのような課題に対しても高いパフォーマンスを示す」ということです。
では、同じメンバーが異なるチームに所属している場合はどうなのでしょか。
チーム内のメンバーが被っている割合が高いケースを調べていくと、
構成メンバーがほとんど同じであるにもパフォーマンスの高いチームと低いチームがあることがわかりました。
これらの研究の結果は、「メンバーの個人の能力ではなく、組織の体制や構造・文化による違いが、パフォーマンスに影響する」ということを示しています。
■集団的知性
「心理的安全性が一番大事である」という結論に至るまでに、プロジェクトアリストテレスはさまざまなことを調べています。その一つが「集団的知性」です。
「集団的知性」とは、
「複数の人たちが集まって能力を発揮した時に、個人の能力、IQとは関係なく発揮される集団としての能力の高さ」です。
アニタ・ウイリアムズ・ウーリーの研究によると、
集団的知性を高めるための2つの要因があります。
一つは「発言機会の平等性」、もう一つは「社会的感受性」です。
「発言機会の平等性」とは、
役割の上下や、お互いの関係性に関係なく、
その場にいる誰もが臆せず話をすることができる、ということです。
「社会的感受性」とは、
自分以外の他のメンバーが、どう感じているのかを察知する能力です。
社会的感受性によって他のメンバーに対する関わりかけを行うことができます。
発言機会の平等性と社会的感受性。この2つがあることで「集団的知性」が高まると言われています。
平等に発言できるからといって、集団的知性が高い組織になれるとは限らない。
相手が受け取れるかどうかに関係なくむやみに言うのではなくて、相手を感じ取りながらコミュニケーションをとることができることが大切なのです。
「発言機会の平等性」と「社会的感受性」が高いことが、すなわち、「心理的安全性」が高いということです。
■エイミー・エドモンドソンの研究
心理的安全性の研究ではハーバード大学のエイミー・エドモンドソンが有名です。
エイミー・エドモンドソンによると
心理的安全性とは、
自分がこんなことを言ってもしょうがない、だとかそういうことを感じずに、
誰もがちゃんとその集団、その組織の目標にとって必要だと思え、
臆することなく自由に発言することができるということ。
(エイミー・エドモンドソン『チーミング』より)
心理的安全性について解説するとき、エイミー・エドモンドソンがしばしば紹介するエピソードの1つに、病院のケースがあります。
看護師が患者の異常に気が付き、医師に連絡をしました。ところが、医師から「そんなことで連絡するな」と怒られてしまった。
こうなると心理的安全性はどんどん下がってしまい、「こんな報告をしたらまたドクターに文句を言われるかも知れない」と思うと、気づいたことを言えなくなる。
こうして心理的安全性が下がっていき、医療事故につながってしまうのです。
逆に、心理的安全性が高いことによって成果が上がっている病院のケースもあります。
心臓手術の新しい技術の導入を試みた病院の事例を調査した結果、医師の熟練度や役職に関係なく、医療チームのメンバーがリーダーである医師に対して思っていることを何でも言える関係性がある(心理的安全性が高い)時に新技術の導入が成功しているとの結果が出ているのです。
まとめ
心理的安全、心の安全が保たれているということは、ただのきれいごとのようにも聞こえます。
しかし、これまで見てきたように、
心理的安全性が低いことによって重大な事故が起きていたり、
心理的安全性が高いことによって個人の能力の総和を超える成果を上げたりすることが、
多くの事例の研究の結果から分かっています。
「心理的安全」とは、ぬるま湯のような単なる仲良しの関係を指す言葉ではありません。
チームが為すべきことのために、時には厳しいことも、言いにくいことも恐れずに投げかけあえる関係のことです。
このような関係性を築くのは簡単ではありません。
しかし、心理的に安全な組織文化は、チームが機能するために必須の要素なのです。