第16回『心理的安全』
2019年09月05日
組織づくりと人づくりに必要な9つの要素
【 組織を一つにするもの 】
●自分たちらしさ
●目標、ビジョン、ゴール
【 ベースとなる組織文化 】
●心理的安全
●多様性と受け入れ合い
●主体性
【 組織として学び、進化し続けるための行動 】
●混ざり合いを起こす
●失敗や異色な発想を受け入れる
●行動量やコミュニケーション量を増やす
●リフレクションを行う
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――組織づくりと人づくりに必要な9つの要素のうち、
今回は「心理的安全」についてお伺いします。
「心理的安全」とは、一言でいうと何でしょうか。
河村 甚(以下、じん):心理的安全とは、
組織の中で、言いにくいことも安心して言い合える関係性がある状態を指しています。
何かを発言したときに、自分が危害を加えられることがないという安心感がある、ということです。
―― それは大切ですね。
じん:はい。「心理的安全は大切だよね」と言うと、みなさん頷かれるのですが、
いろいろな会社の実情を聞いていると、「実は、安心して話せるとは思っていない」ということが結構あるんです。
みなさんの組織でも、「そこは話せないでしょ・・・」と触れないのが当然になっているようなことがあるのではないでしょうか。
また、「職場で安心して話せている」と言葉では言っていても、
実は言いにくくて口に出せていないだけということもよくあります。
―― たしかに、ありそうですね。
じん:家だと安心して話すけれど(その分、家庭内ではケンカが起こったりもするのですが)、
会社ではケンカまではしない、ということはありませんか。
家庭という環境では、気を抜いて、何でも受け入れてもらえるという安心感があるからこそ何でも言ってしまうというのも心理的安全の現れです。
―― 具体的にはどのようなことが起こっているのでしょうか。
じん:心理的安全がなぜ大事か、事例を挙げて説明していきましょう。
まずは飛行機事故のケースです。
飛行機の整備をしていた一般整備士が「ここが危ういな」と気づきました。
しかし、そのことを経験豊富な上司に伝えると、怒られてしまう。
すると、報告しなくなってしまう・・・ということが起こっています。
飛行機整備でそんなことあるわけない、と思われるかもしれませんね。
でも、このような事例が過去の航空機事故の調査で実際に出てきているのです。
スペースシャトルの爆発事故の調査でも同様に、心理的安全性の低さによって事故を防げなかったことが判明しています。
気づいた人がいたのに、全体が動いている中で、
「自分なんかの意見は大して意味がない」と思ってしまったり、
「こんな些細なことを投げ掛けて、全体の流れを乱して迷惑かけたくない」という気持ちが重大な事故を引き起こしているのです。
―― 怖いですね。
じん:もう一つ例を挙げましょう。医療事故のケースです。
患者の状態の異変に気づいた看護師が、医師に連絡しました。
ところが医師は、「忙しいんだからそんな些細なことで連絡するな」といつも怒る。
すると、看護師は患者の何かの変化に気づいたときも、気軽に医師に相談できない状態になっていきます。
「患者の状態が何かおかしい」と気づいても、安心して医師に伝えることができない。
それによって重大な医療事故が起きてしまったという例が数多くあることが判明しています。
どちらのケースも、
技術の問題や、何かの不備があったわけではありません。
原因はすべて心理的安全性の低さです。
人と人との関係性に安心できないことによって、
重大な人の命に関わるような事故が起こってしまっているのです。
逆に、安心して話せるようになり、ちょっとした気づきが共有されれば、
事故を未然に防ぐことができます。
また、事故のようなネガティブなものを無くす効果だけでなく、ポジティブな効果もあります。
―― 心理的に安全な場合は、チームにはどのようなことが起こるのですか。
じん:最初に何かのアイデアに気づいた人は最後の答えまで導けなくても、他の人が別の視点を乗せてくれることで、新たな答えが見つかることがあります。
誰かのちょっとした雑談的な思いつきから新しい事業が生まれ、それが飛躍的に発達していくこともあるでしょう。
フラット型組織では、立場の上下関係なく、心理的に安全な話し合いが行われます。
ちょっとした思いつきから種が生まれて、それがどんどん育っていく。
小さな種が育つということは、フラット型組織が成果を出すためにとても大切なことです。
―― フラット型組織には欠かせない組織風土ですね。
じん:せっかく意見やアイデアを述べても、
「そんなアイデアうまくいくわけないだろ!」と言われたら何の種も生まれてきません。
「それ、おもしろいね!」と言ってもらえれば、安心して発言できますね。
心理的安全性が高く、安心して、何でも言える状態が小さな種を生み出し、それを育てます。
昔ながらのピラミッド型組織では、上の人が決めたことを下の人が従ってやることが良しとされます。
残念なことにピラミッド型組織では、上の人が自分の立場を守るために、下の立場の人を否定するということも少なくありません。
それでは安心して話すことはできませんね。
部下も上司を否定する必要はないし、
上司も守るために部下を否定する必要はありません。
お互いにフラットな関係で、思ったことや感じたことを言い合うことができると、
組織の成長の種を見つけて、育てていくことができます。