第33回『登山ガイドとチームビルディング(5)関わり合いと社会づくり』
2016年06月30日
※今回の『登山ガイドとチームビルディング(5)関わり合いと社会づくり』は、
第29回『登山ガイドとチームビルディング(1)背景』
第30回『登山ガイドとチームビルディング(2)なぜチームビルディングを始めたのか?』
第31回『登山ガイドとチームビルディング(3)経験から学ぶ』
第32回『登山ガイドとチームビルディング(4)人と関わり合う力』
の続きとなります。
河村甚(以下じん)
人と関わるのは、苦手と言いつつ好きなところもあるのかもしれない。
人間って、人と関わるのが本質的に好きなんだと思う。
テレビで観たんだけど、人間は一人では子供を育てられないんだって。というのは、例えば昔からの生き方を変えていない民族をみても、母親が子供を周りの人に預けて山に仕事に行っちゃったりだとか社会で育てる仕組みになってる。一人で育てようとするとうまくいかない。
オランウータンだかチンパンジーだか人間に近い動物は、子供を産んでから5年間妊娠できないんだって。なぜなら、その間母親がずっと育てるから。社会が育てるんじゃなくて、母親が育てる仕組み。人間はそうじゃなくて社会で育てる仕組みがあるから、1年経ったらまた産める。
やっぱり人間って言葉を使うし、社会性が人間という生物の大事な部分を占めるんだなとすごく改めて考えさせられた。そういう意味で、関わりかけの力ってすごく大事だなと思う。
河野格(以下いたる)
大事ですね。ちょっと話が飛びますけど、僕の大好きな冒険家に八幡暁(やはたさとる)というシーカヤッカーがいるんですよ。世界で旅をして、オーストラリアから日本までカヤックで渡るというようなクレイジーな方です(笑) インドネシア、ニューギニアなどいろんな島を巡りながらきて、そういった島は定期船が就航していないので、カヤックでしか行けないところがある。
その八幡さんが旅をしてきて唯一日本が異質だと思う点が「(そういった原始の島で)ひとり暮らしをしている人は誰一人いない」ということだそうです。なるほどと思って。
じん
おお、面白いね! ああ、響くねそれ!
いたる
日本では、ひとり暮らしが自立していることの、大人になることのシンボルみたいになっているところがあると思うんです。「働いたら自立しなよ」って。でも、ぜんぜんシンボルじゃないなと思って(笑) 僕もひとり暮らしも10年経験していて、ひとり暮らしから学ぶことももちろんあります。自立を鍛える要素はあるけど、本当の自立はやっぱり関わって生きることにあるように思う。
僕はすぐ誰かに話しかけてしまうんですけど、その人が他人っていう認識はなくて、「同じ村の人」みたいな。スーパーの中の人もみんな同じ「村の人」だから遠慮とか迷惑とかまったく要らない。そういう感じですね、僕のイメージは。
じん
人間はそういう生き物なんだと思うよ、もともと。
いたる
そうそう、そうだと思うんですよ。
人様に迷惑をかけないっていうことは、僕の中では「人との関係を絶つこと」だと思うんです。意図的に迷惑かけるのはダメだけど。
じん
迷惑をかけようとしてやっている訳ではないよね。
いたる
迷惑かけていいじゃんって。結果的に迷惑になっただけ。もっと……、こういう……、リレーションがあってもいいですよね(笑)
じん
ひとり暮らしとか、現代社会って社会の仕組みがよくできてしまっているだけに、日本の社会の仕組みの、ある意味キレイさというか、キレイにつくっちゃってる社会は……、人間として異質なのかもね。
社会の仕組みができているから一人で生きているように見えるんだけど、それは社会の仕組みの中であって、本当はそこに関わり合いがある。でっかい社会のなかなので、関わり合いがあってもないかのように見えてしまうんだけど、最小単位ではもっとディープな関わり合いにもとづいてるわけだよね、本質的には。
いたる
そう考えると……、そうなんですよ。
僕なんか、子供の頃から卒業式とか友達との別れに結構ドライな人間で。別にまた会えるよ、みたいな感覚なんですよ。宇宙に行くわけでもないし、また会えるよって感覚なんですよ。遠いわけでもないし、会いたければ自分で会いに行けば……というところなので。
なんか……、「世界中はみんな友達」。平易な言葉ですけど(笑) という認識なので、そういう感じで関係性のなかにいるって感じですかね。
じん
やっぱり社会づくりのベースは、そこだよね。なんで今、そうではないんだろうって思うよね。社会の多くの人たちが、あんまりそうじゃないと思うんだ。
俺はもともと関わり合いが苦手だし、なんでも自分でやりたいタイプ。人類が本来、人と人との関係性の上に成り立っていて、それがより良い社会を築いていくのだとしたら、自分みたいな人たちがもともとそうじゃないのはどうしてなんだろうって興味が湧いてきた。
いたる
だから、僕は田舎が好きなんですよ。コミュニティが狭いし近いし、知っている人が多いですから。
僕、都留にいたんですけど、「親父うるさくて一緒に住んでられない」なんて言う人もいるけど……、でも住んでる。良いヤツもいるし悪いヤツもいるし変なヤツもいっぱいいますけど、それで1個のコミュニティですからね。連絡なかったら「あいつどうした?」なんて気にするし。
地域の魅力っていうのは、関わり合う世界が継続されていることだと思う。地域には何もないなんて言いますけど、それは都会的な消費の話であって。前提となる関係性が構築されている社会が継続されているというのが地域だと僕は思います。
それを肌で味わいたくて、都留に10年ほどいたんですよ。スーパーにいても「よお! よお!」って、レジのおばちゃんまで知り合いになってくるみたいな。
簡単に言えば、狭い社会なんですけど、関係性の前提はそういうところにあるかなって。だから言いにくいところもありますし、問題もあるんですけど……。なんかこう……、うーん。
じん
だから「社会づくり」という観点だと、そういう狭いコミュニティみたいなものがたくさんできて、コミュニティ同士が重なり合ったり繋がりあったりするのが素敵な社会なのかもしれないね。
いたる
そうですね。もっと地方に人口が分散するといいのかもしれないですね。
じん
今は遠くにいても仕事できるし。
いたる
その通りだと思います。 世界的に都市集中の流れになってきてますけど。
じん
遠隔で仕事できる業種ではそもそもオフィスに集合してないところもあるし。そういう職種は、地方に行けるよね。