第18回『共同生活から学ぶコミュニティづくり(1)学寮アドバイザーという仕事に就くまで』
2015年12月03日
今回の対談相手は北澤泰子さんです。
北澤さんはお茶の水女子大学のルームシェア型学生寮で学寮アドバイザーというお仕事をされています。共同生活という経験そのものを学びの機会ととらえ、学生がコミュニティ経験を通じて共に学び、成長してゆくための支援をするというユニークな人材育成のお仕事をされています。
河村甚(以下 じん)
やすこさんの噂はずっと聞いていたんですが、実際に会ったのは去年の12月が初めてだったんですよね。
北澤泰子(以下 やすこ)
はい。去年のチームビルディング忘年会にお伺いしたのが最初なんです。私もすみえさんからお噂はきいていたんですけどね。
じん
あらためてやすこさんのお仕事について少し紹介していただけますか?
やすこ
お茶の水女子大学のお茶大SCCという教育寮がありまして、学寮アドバイザーをしております。今、出来て5年目なんですけれどもただの宿舎とは違って、建物も5人ごとにハウスと呼ばれるルームシェア型のユニットに分かれています。そこで共同生活から人間関係を学ぶ成長の場を創っています。
じん
SCCいいよね。共同生活そのものから学んでいくという考えも面白いし、それを建物から作っているのもすごい。建物綺麗だしね。最近行って無いけど行くと緊張する ね。男子禁制で男子トイレ無いし。
やすこ
そうですね、男子フリーでは無いですね〜。
今度寮祭があるのでいらして下さい。
最近は寮祭に他大学の視察に行った時にお世話になった方たちをお招きしたりして、寮同士の交流も出来たらいいなと思っています。
じん
そのあたりの面白いところは、寮をプラットフォームとして人材育成しようっていう考え方がお茶大だけじゃなくていろんなところでやってるっていう…
やすこ
そうです、そうです。
今ちょうどスーパーグローバル大学創成支援が事業がはじまり、留学生と一緒に日本人がアシスタントとして入居する国際寮も増えていて、寮に注目が集まっているのを感じています。あとは医学系や薬学系といった人と関わる仕事をする大学でも、新しく寮を作って、寮で人材育成するっていうケースもあります。勉強も大切なんですけれども、やっぱり患者さんなどとお話しするのが大切。人とのコミュニケーションが大切ということで、そういったことを大学で学ぶという意味もあって注目されています。
じん
寮生活を通じて学ぶというのは人間関係とか、関係性とかを学ぶということが軸にある?
やすこ
そうですね。例えば我慢するとか、自分がやだなと思っていることを伝えるといった様々な問題も、生活ベースだと切っても切れないものなので、言いにくいことを相手に伝えるといったことも大事です。もちろん自分の主張だけを伝えようとしてもうまく行かないので、相手の話を聴くことも必要だし、妥協する事も必要。そういった環境に否応なく直面してくのが寮だと思っています。
じん
なるほど、今そんなお仕事をされているやすこさんのヒストリー、背景についてもお伺いしていいですか?
やすこ
そうですね。小学一年生の時に長野県の方に親から離れて初めてキャンプに行く機会がありました。一人で泊まるのも初めてだったし、5泊して帰って来たら「よく一人で行けたね」って褒めてもらえて、自分の自信につながったんじゃないかと思います。キャンプの参加者は色々な地域から参加している人たちが居て、初めて会う人たちとも仲良くなれるんだなという事も学んだと思います。それから上のお兄さんお姉さん、スタッフの人たちも優しいし、ああいう人になりたいなっていうような気持ちも生まれていたんだと思います。
じん
なるほど?
やすこ
中学高校は静岡にある寄宿舎のある学校に入ったんですけれども、キャンプの経験があったので、寮はキャンプみたいな感じで抵抗なく入れました。
じん
いきなり寮ってビビるよね。だって小学校6年生から中学生になった時にいきなり寮に行くわけでしょ。すごいよね。
お父さん、お母さん寂しくなかった?
やすこ
週末は自宅に帰る制度になっていて、この時期は親とべったり一緒にいるよりは、適度な距離があった方がいいと思います。
そこで中学高校過ごした後、大学は東京に戻って来まして、教育学を勉強して社会科の免許を取りました。
学校以外では小中高生とキャンプをしたり、山登りに行ったりしていました。
卒業後は私が中学高校の6年間過ごした学校の姉妹校の札幌聖心というところに勤めることになりました。自分が生徒として体験したことを、今度は舞台裏を見るような経験でした。「先生たちはこう思ってやっていたんだ」だとか「この行事にはこんな意味があったんだ」だとか、そういう裏側を見れたことで先生たちには迷惑かけてきたけれども、ありがたかったなという事を改めて学びましたね。
逆の立場になって恩返しじゃないですけども、今の中高生たちにできることは何かなということを考えて働いていました。
じん
なるほどね?
やすこ
この仕事をしている時に高校生のタイ体験学習に2年連続で、引率をしました。その中でスラムで活動しているプラティープ財団というNGOがありまして、その事業の中で子どもたちに対する教育の分野での支援と、カンチャナブリーというバンコクから3時間くらい離れたところで運営している「生き直しの学校」というものがあるんです。
少年犯罪をしてしまった子供たちを田舎で更生するような意味合いもあって、集団生活をしながら自分たちの生活を作って行く、勉強もするというところです。
そういった活動を知って、もっとタイのNGOが行っている教育の支援についてもっと詳しく見てみたい、調べてみたいなという気持ちがあって大学院(修士課程)に行くことにしました。大学院の時には二つの調査地でやっていたんですけれども、プラティープ財団は一緒に泊まって子供たちの様子を観察したりとか一緒に遊んだりしていました。もう一つのところは子どもの村学園っていうんですけども、そこは小学校と寄宿舎が同じ敷地内にあって先生も一緒に生活しています。そこにボランティアとして行って調査をさせてもらい、先生たちにインタビューさせていただいたりしました。
修士論文は櫻井義秀編著『タイ上座仏教と社会的包摂―ソーシャル・キャピタルとしての宗教-』2013年,明石書店の「第2章 社会的包摂としてのインフォーマル教育」で読むことができます。
大学院は社会人入学をして4年間の長期履修だったので、4年間を終えた後お茶の水女子大学に学寮アドバイザーの公募があったので東京に戻ってきてこちらに就職しました。
じん
なるほどね、普通に公募が出てたんだね。
やすこ
そうなんです。学生寮の事って書いてあるなーと思って、学生・キャリア支援センターのアソシエイトフェローと書いてあるし、具体的にどんな仕事だろうなっていうのは最初はわからなかったんですけども。
じん
学寮アドバイザー、なかなか特殊な仕事だからね?
なるほど、やすこさんのヒストリー、ありがとうございます。
今の話を聴いていて思い出したのは子供向けのサマーキャンプのこと。自分がチームビルディングジャパンを作る前にどんな会社をつくろかと思っていたかというと、体験をベースに気持ちが動くことから学んで自身が成長して行けるプログラムをやって行こうと思っていていたんだよね。それは自分が過去に自分が海外で経験した事がベースにあってそれは「こんな風に自らの実体験をもとに、自分で、自分たちで話し合いながら考えながら学ぶっていうことが出来るんだ」っていう衝撃を受けたこと。何か先生が来て偉そうに教えてくれるんじゃなくて。それを日本でビジネスとして広めていこうとしたときに、大人向けにやるか、子供向けにやるかっていうのをすごく考えた。で、子供向けのサマーキャンプのプログラムとかもやろうかなって考えた。
やすこ
そうだったんですね?。じゃあこっちの道に来てたかもしれないんですね。
じん
うん。でもね、その時判断したのはやって社会に意義があることをやらなきゃいけないとか、素晴らしい考え方が日本でもっと広がって行ったらいいのにという思いがあって、そのためには子供むけよりもまず大人だなって判断した。大人向けに企業相手にビジネスとして十分に回るようになったら子供向けでもなんでもできるなと思って。
やすこ
じゃあ将来子供向けもやるんですか?
じん
やりたい気持ちはやっぱりある。サマーキャンプじゃないかもしれないけど、子供たちのための事は何かやりたいと思う。